趣味

藤村 「趣味とかはあるんですか?」


吉川 「趣味って言えるようなものかわからないんですけど、アニメとか好きですね」


藤村 「アニメ? あのアニメ。はぁ~ん。好きなんすか、ああいうの」


吉川 「……まぁ、はい」


藤村 「あれでしょ? 中学生くらいの女の子がパンチラしたりするのでしょ? そういうの好きなんだ?」


吉川 「いや、そういうのばかりじゃ」


藤村 「そういうのばっかりでしょ。あとなんか才能も努力もしないやつがやたらと褒められるやつ」


吉川 「確かにそういうのもあります」


藤村 「そういうのしかないでしょ。アニメなんて」


吉川 「いや、それが色々と深い内容のものとかもあって」


藤村 「深い内容! 大人の鑑賞に耐えうる! 好きだよなぁ、エンタメが権威を欲しがった時に使う言葉。何本あるの? 深い内容のは」


吉川 「結構ありますよ」


藤村 「結構。でもそれ以外は全部浅い内容ってことでしょ? パンチラ出るだけの」


吉川 「そんなことないです」


藤村 「言ってることおかしいじゃん! 全部深い内容なの? 全部深刻な? パンチラを前にして人間の生きる意義とか語ってるわけ?」


吉川 「パンチラはちょっと離れてもらっていいですか? 最近はそういうのもないんで」


藤村 「昔はそういうのばっかりってことか。可哀想だね。なくなっちゃったんだ?」


吉川 「あの、いいんで。パンチラに関しては。なんにも思ってないんで」


藤村 「アニメねぇ。ふふっ。ま、いいけどね。人の趣味なんて」


吉川 「いや、でも今は世界的にも注目されてて」


藤村 「あー、はぁん。世界的にね。知ってる? 日本のAVって世界的にそういうやつらからメチャクチャ人気なの」


吉川 「そういうのとはちょっと違うと思うんですが」


藤村 「ふふっ。違うんだ? アニメ好きですって世界中から?」


吉川 「あの、それをきっかけに日本の文化に興味を持つ人がいたりして」


藤村 「パンチラの国だ! って? それは恥ずかしいだろぉ」


吉川 「だからパンチラじゃないんですって。今日日そんなアニメないですから。真面目ですから」


藤村 「アニメが? 真面目なの?」


吉川 「真面目っていってもあれですけど。その、四角四面の感じではないですけど、きちんとエンタメとして人を楽しませるという姿勢は真面目です」


藤村 「はぁん、アニメね。はいはい」


吉川 「では逆に聞きますけど、あなたの趣味は何なんですか? さぞかし立派なものなんでしょうね!?」


藤村 「めっちゃキレてるじゃん。どうした?」


吉川 「キレてませんけど!? 趣味! なんなんですか?」


藤村 「俺? 人間観察」


吉川 「人間観察ぅ!? うわぁ! あの人間観察?」


藤村 「うん、そう」


吉川 「それって趣味なんですか?」


藤村 「趣味だね」


吉川 「人間観察ってあれじゃないですか? 何もしてないくせにしてる感を出したい空っぽの人が気の利いたことを思いつかなくて、無理やり絞り出した言葉が人間観察じゃないですか?」


藤村 「そうかなぁ? 面白いよ。人間観察」


吉川 「面白いですか? 本当に? アニメのことを随分言ってくれましたが、どれほどのものを出してくるかと思ったら人間観察とは。その人間観察で培った感受性があるなら他人の趣味のことをとやかくいうようなことはないと思いますけどねぇ」


藤村 「いやいや、だって言うよ。キミはほら、ロリ巨乳のパンチラとかのアニメが大好きじゃん」


吉川 「だからぁ!」


藤村 「好きだろ。いつも見てるじゃん。キミのパソコンのフォルダ800ギガがそういうアニメだろ」


吉川 「は? え?」


藤村 「すごいよね。今週は今のところ11時間? 見てるんだよ。よく飽きないね」


吉川 「な、なにが?」


藤村 「ちなみに友達にもバレてるよ。友達っていうか向こうはどう思ってるかわからないけど、笹咲さん? 知ってるよ」


吉川 「……なんで」


藤村 「まぁ同類か。笹咲さんはこの間マッチングアプリで美人局にやられて8万取られてたよ」


吉川 「あ、あんた」


藤村 「楽しいよ。人間観察」


吉川 「今すぐやめてくれ!」



暗転

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