俳句

藤村 「俳句の奥深さみたいなものにようやく気づいてさ」


吉川 「俳句ねぇ。なんか学校の授業でやったきりだな」


藤村 「やっぱりさ、雅さが必要なんだよ。このクソみたいな世界でゴミムシのように這いずり回って生きてる人間には」


吉川 「そんな風に思ったことはないけどな」


藤村 「でもさ、日常の一場面を切り取って言葉によって表すって、この忙しい現代において結構大切なことなんじゃないかなって」


吉川 「確かに。言ってみればインスタとかもそんなものかもしれないな」


藤村 「そうだね。ただあんまりイイネを目的にするとそれは本末転倒すると思うんだけど。インスタなんかは完全にそっち寄りじゃん? 承認欲求っていうの? その点俳句はさ、言っちゃ悪いけど別に流行ってるわけでもないから」


吉川 「うん、周りでやってる人見たことない」


藤村 「だからなんていうかな、いい意味で熱量が落ち着いてるというか、好きな人が勝手にやるだけっていう感じでいいと思うんだよね」


吉川 「俳句かぁ。やってみようと思ったことすらなかった」


藤村 「ちょっとやってみない?」


吉川 「そうだな。五七五で季語を入れるんだよね」


藤村 「ルールはそのくらい」


吉川 「冬……、寒……、寒さ……、寒風……、なんか改めて考えると難しいな」


藤村 「そうなんだよ! 意外と難しいよな! 五はまだいけるんだよ。七が難しい。七が中ボスって感じする」


吉川 「それは全然共感できないけど」


藤村 「最初の五は勢いでいけちゃうじゃん?」


吉川 「そうだなぁ。こういうのはどうかな? 自販機の あたたか~いに いざなわれ」


藤村 「お前、なにそれ?」


吉川 「ダメか。あたたか~いは季語じゃないか」


藤村 「いや、なんでそんなにすぐできるんだよ!? マジか?」


吉川 「え、できてる? いい?」


藤村 「おい、ふざけんなよ。やってただろ? 相当やってた人だろ」


吉川 「やってないよ。どこでやるものかもわからないし」


藤村 「もうプロのやつじゃん。芭蕉だって自販機の句は読めなかったよ?」


吉川 「芭蕉の時代はなかっただけだろ」


藤村 「え、どうやったの? ちょっとコツ教えて」


吉川 「コツとかないよ。なんとなくだよ。俺だってできてるかどうかわからないくらいで」


藤村 「七はどう思いついたの? 俺はいつもそこで躓いて一生できないんだよ」


吉川 「一生できない? そんなに躓く?」


藤村 「そもそも七文字の言葉なんてないじゃん?」


吉川 「あるよ。割とあるよ」


藤村 「一個思いついたんだけど、うんこちんちん。それ以外にないからさ」


吉川 「あるだろ! それオンリー? よく俳句やろうと思ったな」


藤村 「そうすると全部の句がうんこちんちんにちなんだ句になっちゃう」


吉川 「なっちゃうよ。七がそれオンリーなんだから。打開策を思いつかないと」


藤村 「でももう他に言葉がないからね。日本語の限界なんじゃないかな」


吉川 「日本語を過小評価しすぎだよ! あるだろ。七文字。いくらでもあるよ!」


藤村 「いくらでもあるよ、は八文字だよ?」


吉川 「言ったわけじゃないよ! 他にもあるでしょ」


藤村 「たとえそれで七を乗り越えても最後の五がさ。もう五って最初に倒した相手じゃん。同じでいいのに同じのじゃダメなんでしょ?」


吉川 「まぁ、同じのを繰り返すテクニックもあるみたいだけど」


藤村 「五に関しては一回使ってるんだからもうネタ切れだよね。なに二度目要求してるの? 空気読めないの? ってムカついてきちゃんだよ」


吉川 「俳句、基本的に向いてないんじゃない?」


藤村 「この季節感とかを表現したいんだよ」


吉川 「なんか急にグッと寒くなったからな。冬の寒さを表現したくなる気持ちはわかる」


藤村 「あ、できたかも。七文字、いけるかも」


吉川 「でた? うんこちんちん以外で」


藤村 「以外で。多分日本語で二つ目」


吉川 「それは違うけどな。もっとあるよ」


藤村 「正座して タマキン痒し あぐらかく」


吉川 「お前の脳内の七はどうなってるの?」


藤村 「あ、ダメだ。タマキン痒しは夏の季語だわ」


吉川 「違うよ!」



暗転

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