イマジナリー

藤村 「子供のことで悩んでてさ」


吉川 「……子供? 誰の?」


藤村 「俺のなんだけど」


吉川 「え? お前の子供? いないだろ、子供」


藤村 「いるにはいるんだけどさ」


吉川 「子供いるの!? え? だって結婚は?」


藤村 「結婚はしてないけど」


吉川 「どういうこと? 立ち入ったこと聞いちゃっていいの?」


藤村 「まぁ、大丈夫」


吉川 「え。子供いくつになるの?」


藤村 「今年12」


吉川 「そんなに大きいの!? 嘘だろ」


藤村 「すぐだよ、子供が大きくなるのは」


吉川 「それにしても12歳の子供が!?」


藤村 「できた時がもう9歳だったから」


吉川 「ん? どういうこと? 意味がわからない。なんだろ? 相手の連れ子ってこと?」


藤村 「違う。俺の子」


吉川 「あのさ、順を追って聞かせてもらっていい? 状況があんまり飲み込めなくて」


藤村 「わかんないかな? 子供が12歳になるんだけど」


吉川 「うん。それはわかるけど、ペットのことじゃないよね?」


藤村 「子供。人間の」


吉川 「わかんない。なんかそういうなぞなぞ的なものでもないよね?」


藤村 「普通に悩んでるんだけどさ」


吉川 「ごめんごめん。どういうこと?」


藤村 「ほら、3年くらい前にハッピーセットあったじゃん」


吉川 「マクドナルドのやつね。子供用の。おもちゃがもらえるやつ」


藤村 「そう。あれをコンプリートしたかったんだけど、買うの恥ずかしいじゃん?」


吉川 「まぁ、さすがにね。ちょっと照れはあるかな」


藤村 「だからその時に生み出したのが、当時9歳の子供で。ハッピーセットのおもちゃが大好きなの。それで俺は『こんなのどうせすぐ飽きるのに』と思いながらヤレヤレって顔で買ってたわけ」


吉川 「イマジナリー子供じゃん!」


藤村 「でもそうでもしないと、自尊心がズタズタになっちゃうから」


吉川 「自尊心を守るために、子供が好きなんでっていう体で買ってたの?」


藤村 「不思議とそうすると恥ずかしくないし、むしろちょっと誇らしくもあるんだよね。こんな俺だけど立派に父親やれてるなって気持ちで」


吉川 「全然そんなお前のままだけどな! 父親でもない」


藤村 「あの頃はもうマックに行くのが楽しくてね。子供が喜ぶ顔が目に浮かぶし」


吉川 「目に浮かんだもの以外の実体がない子供だけどな」


藤村 「でさ、ここからが悩みなんだけど。またハッピーセットで俺好みの最高おもちゃがついてくるわけですよ! 見てよ、これ」


吉川 「ふぅん。いや、わからんけど」


藤村 「これもコンプリートしたいんだよ」


吉川 「すりゃいいだろ。またよくわからない父親面して」


藤村 「俺もそうしたかったんだけど、もう12じゃん? 興味なくなってんだよ」


吉川 「知らねえよ! お前のイマジナリーだろ!」


藤村 「イマジナリーと言えど俺の子だからさ。もう最近は大変なわけよ。昔はお父さんのこと好きだったのに、今じゃ舌打ちとかするからね」


吉川 「そのイマジナリー子供は女の子なの?」


藤村 「娘。もう色気づいちゃってさ。どうやって接したらいいかもわからないし」


吉川 「イマジナリー嫁はどうなってるの?」


藤村 「いや、大人の女を妄想して生活してたら流石にヤバいだろ」


吉川 「子供だってヤバイよ! ことによってはそっちの方がヤバイよ」


藤村 「違うんだよ。これでも俺はちゃんと父親として愛情と威厳を持って接してきたんだよ」


吉川 「だからなんだよ! いないだろ、その娘は」


藤村 「人の娘に向かっていくらなんでもそんな言い方ないだろ。訂正してくれない?」


吉川 「威厳持ってるな! 持ってるから何なんだよ! ハッピーセットのための子供だろ」


藤村 「そうだったんだけど。最近じゃそんなハッピーセットのおもちゃを集めてる俺に対する視線がまるで負け犬のおじさんを見るようでさ」


吉川 「リアリティがちゃんとある!」



暗転

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