なんかセーフ
藤村 「聞いて欲しいんだけど、この間ヤバくってさ。出先でうんこしたくなって大変だったんだよ」
吉川 「しょうもない話だなぁ。大丈夫だったの?」
藤村 「なんかセーフだったけどマジでヤバかった」
吉川 「でも焦るよなぁ。知らないトイレだとちょっと緊張しちゃうし」
藤村 「そうそう。だからと言って選んでる余裕なんてないわけじゃん? あの時の絶望感わかる?」
吉川 「俺もしたくなったことはあったから。でも最悪の事態にならなくてよかったな」
藤村 「本当だよ」
吉川 「外で漏らすとか最悪だからな」
藤村 「いや、漏れはしたんだけど」
吉川 「え」
藤村 「漏れはしたけど、なんかセーフだった」
吉川 「どういうこと?」
藤村 「漏れはしたんだけどね。まじあの時はヤバかったよ」
吉川 「意味がわからない。セーフじゃなかったの? 漏れたの?」
藤村 「漏れはした」
吉川 「いや、漏れたらアウトだろ」
藤村 「俺も最初そうかと思ったんだよ。でもなんかセーフだった」
吉川 「なんかってなんだよ!?」
藤村 「漏れはしたんだけどね、実際あんまり恥ずかしくもなかったし」
吉川 「そういう問題!? 羞恥心とか関係なく漏れたんならアウトだろ!」
藤村 「普通はそう思うよね。俺だって漏れたら終わりだと思ってた。でも漏れてみると意外とこんなもんかって感じで」
吉川 「それもう、限界を突破して精神が崩壊しちゃってるだけでしょ」
藤村 「でもね、意外とすぐに気持ちを切り替えられたからセーフかなって」
吉川 「セーフじゃねえよ! セーフなわけがないよ。どこをどう切り取ってもアウトだよ」
藤村 「そうなんだよね。こればっかりは経験してみないとわからないと思う。意外とね、いけるんだよ」
吉川 「いけてないよ! それはもう現実逃避してるんだよ」
藤村 「逆に清々しさすら感じるから。マジで」
吉川 「最悪の状況を受け入れられずに判断力が麻痺してるだけだ!」
藤村 「考えてみればさ、俺らって赤ちゃんの頃はうんこを漏らすのが当たり前だったわけじゃん? だから原点に立ち返ったようなね。初心を忘れてたなぁって改めて感じたくらい」
吉川 「その初心は忘れていいやつだよ。そこからやり直そうって考えるやついないから!」
藤村 「確かに物理的には漏れていたんだけど、結局人間ていうのは心の有り様が大切なわけじゃない? いくらお金があっても心が貧しい人はろくでもないだろ」
吉川 「いくら心が豊かでも物理的にうんこ漏らしてるやつ以上にろくでもない存在はないよ!」
藤村 「本当にそうか? 我々は世間体みたいなものに囚われすぎてないか? 人間っていうのはもっと自由な存在なんじゃないの? 人の目を気にしたり、社会的な成功なんていうありもしない幻想に躍らされてさ。そんなことよりももっと大切なことがあることを思い出さなきゃ」
吉川 「尤もらしい事を言ってるが、それはうんこ漏らさなくても思い出せることなんじゃない? うんこを漏らしたことを正当化できる理屈じゃないぞ」
藤村 「果たして本当にそうかな?」
吉川 「そうだよ。絶対にそうだよ」
藤村 「弱者に寄り添うなんて格好をつけたこと言ってる奴らも、うんこを漏らした人に寄り添うことはできるのか?」
吉川 「寄り添いたくないよ、それは。なぜなら臭いから」
藤村 「そう。でもうんこを漏らした人ならどうだろ? 俺のほうがもっと漏れてたぞ、なんて優しい声を掛けられるんじゃないか?」
吉川 「それ、優しい声なの? なんか慰めになる? 最悪に対して最悪のマウント取られてる気もするが」
藤村 「だったら試しにお前もこの場で漏れてみろよ!」
吉川 「そんな試しある? 理解をするために失うものが多すぎるよ」
藤村 「大丈夫だって。なんかセーフになるから。実は俺も今ちょっと漏れかかってるから安心しろ」
吉川 「なんかセーフにはなってないよ!」
暗転
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