やり

吉川 「聞いたよ」


藤村 「なにが?」


吉川 「なんか振られたみたいじゃん。良子に」


藤村 「あー。え? っていうかなにそれ、誰から?」


吉川 「みんな言ってるけど」


藤村 「振られたっていうかさ。全然そういうのじゃないから」


吉川 「LINEでって」


藤村 「あの、違うんだよ。なんていうかな。違うんだよ」


吉川 「まぁ、色々あるよな」


藤村 「違うから。そもそもの話さ、最初からそんな気はなかったんだよね」


吉川 「いや、気はあっただろ。言ってたじゃん。結構何回も聞いたよ?」


藤村 「言ってた?」


吉川 「マジ好きだわってうわ言のように言ってたじゃん」


藤村 「それはそういう意味で言ってたんじゃなくて。なんていうか、人間的に好きっていうか。尊敬できるみたいな意味でね」


吉川 「違うだろ。やりたいって言ってたし」


藤村 「……それは槍違いじゃない? やりたいじゃなくて槍でなんかしたいって言ってなかった?」


吉川 「なんだよ、槍で何するんだよ」


藤村 「槍で戦うようなアクティビティを、やりたいっていう」


吉川 「そんなアクティビティあるか? ラウンドワンでも見たことないぞ?」


藤村 「勘違いして欲しくないんだけど、告白とかじゃなかったから。っていうか、そんなに興味もなかったし」


吉川 「見苦しいな。振られてからそういうの悲しくない?」


藤村 「振られてないって! 本当に。俺は別に女とかそんなに興味なかったし」


吉川 「マジ好きだわーって言ってたのに?」


藤村 「そのくらいは口癖のように言うから。段階で言えばマジ好きっていうのは割と下の方で、それより上になるとマジェスティとか言ってた」


吉川 「マジェスティってマジ好きの上位版じゃないだろ」


藤村 「女王陛下くらいマジェスティだったから」


吉川 「別にバカにしてるわけじゃないよ? 凹んでないかなぁって思っただけで」


藤村 「凹む!? 俺が? なんで? 全然そんなじゃないのに」


吉川 「すげぇ食い気味で来るじゃん。そんな高い声出せるんだ?」


藤村 「確かに言われて見れば良子も可愛くないとは思わないけど。付き合うとかさ、付き合わないとか、そういう目で見たことはなかったなぁ」


吉川 「付き合いたいって言ってたよ?」


藤村 「あの、言った? 言ったかも知れないけど、それは意味が違ってさ。……槍で突き合う意味だったかも」


吉川 「また槍!? なんで槍のアクティビティにこだわってるんだよ!」


藤村 「馬上槍試合みたいな」


吉川 「現代で馬上槍試合したいなぁ、突き合たいっていう人いる?」


藤村 「結構俺は言うタイプかも」


吉川 「馬上槍試合したことあるの?」


藤村 「したことなければやりたがっちゃダメですか!? 誰だって初体験に対する憧れとかあるでしょう!」


吉川 「急に声デカくなる。いいけど、なんか言い訳がましいなぁって気が」


藤村 「全然そんなことはないけど? 人の発言をいちいち言質取ったみたいにほじくり出す方が気持ち悪いよな!」


吉川 「そんなつもりで言ってないけど」


藤村 「ほら! お前もそんなつもりで言ったわけじゃないことを言われたら嫌だろ! 俺だってそうなんだよ! そんなつもりで言ってないから! そんなつもりじゃないことを勝手に解釈されて振られたとか振られてないとか、相当失礼なことだと思いますけど!?」


吉川 「なんか悪かったよ。凹んでるんだったらメシとか食いに行くかとか思っただけで」


藤村 「全然凹んではない。凹むようなことは何も起きてないから。ただ良子と俺のことなわけだから、他人が首を突っ込んでくるのはおかしくないかって言ってるんだよ! 馬上槍だってそんなに突っ込まないぞ?」


吉川 「馬上槍の突っ込み具合は知らないから喩えられてもピンとこない」


藤村 「……あぁ、そうだよ! 確かに振られたよ! でもそれは良子が馬上槍をブンブン振ってたって話だよ!」


吉川 「さては全部馬上槍試合で回収しようって企んでるな?」



暗転

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