ぺてんし

こんな格好

吉川　「すみません、こんな時間に」

藤村　「いえいえ、こっちこそこんな格好ですみません」

吉川　「全然大丈夫です。むしろちゃんとスーツじゃないですか。こっちなんて作業着で」

藤村　「いやいや、取り繕ってるだけで、下はエグめのセクシーランジェリーですから」

吉川　「どういうこと？　なんでそんなことに？」

藤村　「本当にこんな格好ですみません」

吉川　「言わなきゃわからないのに。スーツで押し通して欲しかった」

藤村　「本当にすみませんね。途中で急に呼び出さたもので」

吉川　「なんの？　状況がまったくわからないけど。どういう途中ならそうなるの？」

藤村　「更衣室みたいのがあるならちゃっちゃと着替えてきますけど」

吉川　「下だけ？　ランジェリーだけ？　あんまり変わらないけどね、こっちとしては。むしろ着替えたんだっていう事実が胸の奥につかえちゃう」

藤村　「じゃあこのままでやります。ちょっとパールが擦れて違和感があるんですが」

吉川　「パ、パ、パール！？　パールが？　ランジェリーに？　想像もつかなくなっちゃったな」

藤村　「いえ、よくあるパールを列状に並べた線がちょうど股のところを通る感じになってるんで」

吉川　「よくある？　セクシーランジェリー界隈のよくあるは知らないよ。その一言で常識みたいに言われても、ああアレね、みたいに思わないもの」

藤村　「ブラもちょうど乳首に当たる部分にパールがあるんで」

吉川　「ブラもしてるの！？」

藤村　「当たり前じゃないですか。丸出しだったら変態ですよ」

吉川　「いや？　男がブラしてる方が変態だと思うけど？」

藤村　「それはどうかなぁ。隠してるのと丸出しなら隠してる方が世の中に配慮してるじゃないですか。丸出しなんて公序良俗に反しますよ」

吉川　「言われたくないなー！　公序良俗に関して一言も言われたくない。丸出しじゃないからね。シャツ着てるし」

藤村　「ははぁん。ジェンダー保守みたいな論争を？」

吉川　「全然違う。そういう小難しい話じゃなくて。ブラをしないのに特に理由はいらないけど、する方が理由必要でしょ？　現在の世界の常識だと」

藤村　「クジラを殺して食べるのが常識だっていう国もありますからね」

吉川　「すごいややこしい問題とごっちゃにするじゃん！　セクシーランジェリー着てるだけの人が」

藤村　「とりあえず向こうも途中で抜けてきたんで、終わり次第すぐ戻らなきゃならないんですよ」

吉川　「何の何をしてるんだ！？　個人的になにか趣味でやってるのかと思ったらそうでもないのか」

藤村　「向こうは向こうで別件なんで」

吉川　「別過ぎるな。そんなに別の別件あるんだ。こっちは確認して承認を貰わないと作業が進まなくなっちゃうんですけど」

藤村　「あー、こういう状況なんですか。はいはい。これでしたらそのまま進めてもらって構いません。各所にはこちらから連絡しておきますから」

吉川　「わかりました。じゃあこのままで進めます。すみませんこんなことで」

藤村　「いえ、ちゃんと連絡いただけて助かりました。勝手に進められちゃうとこっちも脱ぐに脱げないという事態になりますから」

吉川　「それは別件の方でしょ。なにをどう脱ぐのか全然わからないけども！」

藤村　「いえ、脱ぐのは各所に連絡したあとなんで」

吉川　「どの各所！？　何の管轄をしてる部署があるんだよ。しかも複数」

藤村　「あとなんか武器になるようなものありますかね？　鉄パイプとかでいいんですけど」

吉川　「なんで？　あなたはどういう状況に置かれてる人なの？」

藤村　「ちょっと念のため。向こうに戻った時なにかあったら困るんで」

吉川　「それで武装を？　なんで？　静かなるドンなの？」

藤村　「こんな格好してったら驚かれちゃうから」

暗転