褒めて

藤村 「そんなに褒められると流石に照れくさいけどな」


吉川 「褒めたというか事実を言っただけだよ」


藤村 「やめろよ~。じゃあ代わりに俺の方も褒め返していい?」


吉川 「別にそんなつもりで言ったわけじゃないから。なんか催促したみたいで格好悪いじゃん」


藤村 「いいでしょ。お互いにこう称え合ってあげていこうよ」


吉川 「嬉しいけどそうやって宣言されると恥ずかしさが先に来ちゃうよ。もっとこうさり気なくやって欲しかった」


藤村 「軽くだよ。まず優しくなった。本当に昔は結構ひどかったけど優しくなったよね。まじで最初にあった時はクソ野郎だと思ってたもん」


吉川 「あ、そう? 変わった?」


藤村 「変わった。家庭環境が劣悪だったのかわからないけど、人の心とかないのかと思ってたもん。それが今はちゃんと人の痛みに気づけるようになったもんね」


吉川 「昔のことを言われるとちょっとアレだけどな」


藤村 「あとファッションセンスも良くなったよね。昔はどこで買ってきたんだよって言うような服着てて笑ったもん」


吉川 「そうだっけ?」


藤村 「アウトレットでも値段がつかないような服を収集してるのかなってくらい。色味とかこの人色盲なのかなって感じだったよ? でも今は全然まとも。一緒に歩いてても恥ずかしくないもの」


吉川 「そんなひどかった?」


藤村 「自覚なかったの? 最初笑わそうとしてやってるのかと思ったもん」


吉川 「そ、そう……」


藤村 「笑わそうと言えばギャグセンも最低だったじゃん。弱者をあざ笑うような品のない笑いしか言わなかったのに、今はダジャレとかも言えるようになったからなぁ」


吉川 「あの、一回いい? タイムしてもらって」


藤村 「どうした?」


吉川 「それなんだけど、褒める感じのターンなんだよね、今」


藤村 「まだまだ尽きないけどね」


吉川 「なんていうかダメージがあるんだよね。こっちに」


藤村 「わかる! あんまり褒められすぎると逆に気持ち悪いもんな」


吉川 「違うんだな。その過剰な褒めに対する違和感ではなくて。ストレートに傷つく感じのダメージがなぜかある」


藤村 「そんなことある? 考え過ぎじゃない?」


吉川 「過ぎではないな。なんか褒めに行く前に一回下がるじゃん。その下がり方が結構じわじわと蓄積して足腰がガクガクになってきた」


藤村 「下げてない下げてない! 事実をありのままに言っただけ」


吉川 「そう言われると余計にきついんだよ。まだ悪口として言ってくれたほうが良かった」


藤村 「それなら嘘をついてでも言わないほうがよかった? あの頃はクソではありませんでしたって」


吉川 「嘘っていうかさ。言わなくていいじゃない。たとえそう思ってたとしても」


藤村 「だってその過去と現在の差によってしか褒められなくない?」


吉川 「そんなことないよ! 普通に褒められるだろ」


藤村 「いや、でも現時点であらゆるパラメータが平均以下だよ? それを褒めるためには過去からの視点という文脈じゃないと成立しないから」


吉川 「平均以下だったんだ。優しいとか言ってたのも」


藤村 「でもあの頃に比べたら優しいから! 犬とか蹴らないし」


吉川 「蹴らないよ! 昔だって蹴ってないよ!」


藤村 「蹴ってなかったっけ? でも蹴ってそう感が出てたからな。今は一緒に歩いてても蹴りはしないかなって思うよ。唾吐くくらいでしょ?」


吉川 「そんな? 俺の優しさのイメージそんな? 確かにそれなら平均以下だけど。ファッションセンスも平均以下ってこと?」


藤村 「まだ許容範囲だし、匂いは今は気にならないから」


吉川 「結構下駄を履かせてくれた褒めだったんだ。本当はまだヤバいってこと?」


藤村 「それを言っちゃっていいの?」


吉川 「そんなに? 事前に覚悟を問うレベルの問題?」


藤村 「よっしゃ、じゃあいよいよ貶すターンと参りますか!」


吉川 「さっきと気合の入り様が違くない?」



暗転

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