月が綺麗ですね

藤村 「夏目漱石が『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳したという逸話があるじゃない?」


吉川 「本当に漱石が言ったのか信憑性は危ういけど、そういう話は聞いたことがあるな」


藤村 「あれは、どういう意味なの?」


吉川 「どういう意味って?」


藤村 「あなた=月ってこと?」


吉川 「そうじゃないでしょ。そういう風に対応して翻訳してるわけじゃないから」


藤村 「なら月はどういう意味なの? 月っていう言葉の中に隠された意味があるの? 月に隠された月面基地があるって話は聞いたことがあるけど」


吉川 「それこそ都市伝説みたいになってきたな。月は月でいいんだよ」


藤村 「例えばさ、月って太陽と比べると二番手みたいな意味合いとかがあるとか。マリオが太陽ならルイージが月みたいなイメージがあるじゃない」


吉川 「そういうのじゃないと思うよ」


藤村 「カレーが太陽でシチューが月みたいな」


吉川 「シチューはシチューで一番だろ。別に同じジャンルじゃないよ。勝手に優劣をつけるな」


藤村 「じゃあハヤシライスか」


吉川 「ハヤシもハヤシでカレーの控え選手じゃないんだよ。ハヤシリーグの四番打ってるんだから」


藤村 「和也が太陽で達也が月みたいな」


吉川 「お前、タッチ読んでないだろ! 達也の方が太陽だったって話なんだよ」


藤村 「ボクシング時代しか読んでない」


吉川 「そんな中途半端な読み方するなよ。ドカベンは柔道編で満足するやつかよ」


藤村 「つまり月が綺麗ですねってのは、なんか一応キープしようかなと思ってた相手が意外と可愛かったって意味が含まれてるのかな」


吉川 「クソ野郎過ぎるだろ。夏目漱石どんだけクズなんだよ!」


藤村 「そう訳したとしか思えないけど。他に意味あるか?」


吉川 「だからなんていうかな、同じ場所で同じものを見てさ、で綺麗だなっていう同じような思いを共感し合う関係みたいなものに愛情を見出してるんじゃないの?」


藤村 「ほぉん。国語の先生みたいなこと言うね」


吉川 「いや、わからないよ? 正解は。ただ意味とかを探すとなればさ。そのまんまの意味じゃないだろうから」


藤村 「でもそれだったら、一緒にうどんを食べて『出汁が効いてますね』でもいいんじゃない?」


吉川 「確かにそれでも成立してそうだけど。言葉があんまりロマンチックじゃないだろ。出汁が効いてますねって言われてポッと頬を赤らめてもなんか温まっただけみたいになっちゃうじゃん」


藤村 「でも意味は一緒だろ?」


吉川 「一緒だけど、出汁で告白されるの思い出のメモリーに残したくないだろ」


藤村 「あの子犬、すごいバイブレーションしてますね。とか」


吉川 「どういう状況なの? 子犬でメチャクチャぷるぷるしてるのいるけど。言われた相手もこれってひょっとして『I love you』ってこと? と思いたくないだろ、バイブレーションで」


藤村 「唾つけたところ擦るとすごい臭いですよね?」


吉川 「あるあるになってるじゃん。もうそうなると臭い以上の情報は入ってこないだろ。臭さを愛情に例えたのかな、って深読みしてくれる人もうエスパーだよ」


藤村 「なんか靴の中にちっちゃい石が入ってて気持ち悪いんですよね」


吉川 「それはお前しかわからないだろ。月や出汁はギリでお互いに感じあえるからいいけど、靴の違和感はお前だけの感覚だよ。私も! って言われたら逆に怖いだろ」


藤村 「第8レースは1-3-5が堅いんですわ」


吉川 「もっとまともなところにデートしに行けよ。それをI love youの意味合いで使って通じたんなら、もう掛け替えのないパートナーだとは思うけど」


藤村 「あとお前さっきからいちいちうるさいよ!」


吉川 「うるさいってなんだよ! お前が頓珍漢なこと言うからだろ!」


藤村 「いや、今のは月が綺麗ですねって意味で言ったんだけど……」


吉川 「お、おうっ」



暗転

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