天才

吉川 「藤村先生の作品はもう全て最高ですよ。本当に天才だと思います」


藤村 「そんなことないですけどね」


吉川 「本当にそう思ってますから」


藤村 「そうですか? ちなみにどのあたりが天才?」


吉川 「え?」


藤村 「もうちょっと詳しく、どのあたりが天才かな?」


吉川 「あの、まず文章が上手で、構成が巧みなところですかね」


藤村 「なるほど。そこだけ?」


吉川 「え」


藤村 「どうせ私の天才はそこだけなんだ。それ以外はもう並以下くらいに思ってる?」


吉川 「自己肯定感が低いな。そんなことないです。天才です。えっと、キャラクターがとにかく活き活きとしてます」


藤村 「はい。キャラクター。それで?」


吉川 「あ、えーと。表現力が高くて」


藤村 「それさっきの文章が上手のところに含まれない?」


吉川 「まぁそうなんですけど」


藤村 「なら重複してるな。もう既出の天才だわ、それ」


吉川 「既出の天才とかあるんですか? いいじゃないですか、それぞれで」


藤村 「そこしかないっていうならもうしょうがないけど」


吉川 「そこしかなくはないです。もっとあります」


藤村 「特にどこ? 具体的に」


吉川 「具体的っていうのはまた難しいんですけど。ボクもあんまり語彙が豊富じゃないので。あ、語彙がすごい! 先生は語彙の天才」


藤村 「語彙の天才。出たねー。上手いこと出たね、流れで」


吉川 「あとはもう、全体のレベルが高いので」


藤村 「いいの? 全体を言っちゃうともう最後になっちゃうよ? 全体はもう全体じゃん。褒める時はディティールから言ったほうがあとあと伸びしろあるんじゃない?」


吉川 「はい、そうですね。全体はもうちょっと後回しで」


藤村 「じゃ特に天才な部分といえば?」


吉川 「え、特にですか?」


藤村 「ないならないでいいんだよ。どうせ私なんて平凡な天才だから」


吉川 「平凡な天才っていうのもすごいと思いますけど。特にですか、特にで言えば……」


藤村 「ないか? 特にはないか」


吉川 「あるんですけど。もっとふんわりで良くないですか? 天才っていうのは間違いないんで」


藤村 「言質取っておきたいから」


吉川 「言質を。天才の詳細の言質を?」


藤村 「あとになってやっぱり天才というほどではなかったということになると、もうメンタルがもたない。即死してしまう」


吉川 「即死を」


藤村 「爆死しちゃう」


吉川 「爆死!? なんで? 爆死は爆発に巻き込まれないとならないじゃないですか。まぁまぁ能動的に爆発に近づかないと」


藤村 「ないっていうならこのあたりで切り上げて、いただいた天才を切り崩しながら細々と生きていくけど」


吉川 「およそ天才らしからぬ生き方。ちょっとずつ切り崩さないでいいですよ。ずっと天才なんで」


藤村 「でも実際問題さっきから新しい天才出てないから」


吉川 「服のセンスがいい。今日なんてすごく格好いいです。天才」


藤村 「……」


吉川 「ダメか。服は流石に」


藤村 「切り口新しいね!」


吉川 「いけた! 服でいけたんだ。あともう声が! 声が天才! ずっと聞いていたい」


藤村 「よせよぉ~、それほどでもないだろ」


吉川 「どの角度でもいけるな。あと内臓が健康そう。天才!」


藤村 「そんなとこまでバレてるの? 勘弁してよぉ」


吉川 「チョロすぎるな。こうなるとどこからダメなのかラインを見極めたくなる。細胞の一つ一つがもう天才!」


藤村 「ディティール切り込んできたね。それが本当ならもう間違いなく天才だな」


吉川 「あとそのペットボトル! ちょっと飲み残してるところが天才!」


藤村 「気づいたか、ついに。この絶妙さに」


吉川 「自己肯定感が高いのか低いのかバグってきてる。その眼鏡! 度数が特に天才!」


藤村 「特にをここで使ってきたか。スーパーひとしくんみたいな使い方で。やるねえ!」


吉川 「あとバカなところが天才!」



暗転

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