慰め

藤村 「どうしたんだよ? なんかお前、変だぞ?」


吉川 「そうか?」


藤村 「なにかあった?」


吉川 「実は先日おばあちゃんが亡くなってさ」


藤村 「あぁ……」


吉川 「俺おばあちゃん子だったからさ、なんかもういちいち思い出しちゃうんだよね」


藤村 「そうだったのか」


吉川 「そろそろ切り替えなきゃとは思うんだけど、なかなか簡単にはいかないよ」


藤村 「まぁ、それで落ち込むのはわかるよ。でもさ、お前にもいいところはあるからさ」


吉川 「うん?」


藤村 「そんなに落ち込むなよ。いいところあるんだから」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「お前にもいいところは、あるぞ」


吉川 「別に自分にいいところがないと思ってるわけじゃないから」


藤村 「でも落ち込んでるんだろ?」


吉川 「落ち込んではいるよ」


藤村 「そんなお前だけど、いいところもあるから」


吉川 「慰め方下手すぎない? 落ち込んでる時の特効薬がいいところ一択だと思ってる? そこで悩んでるんじゃないんだよ。おばあちゃんが亡くなってるんだよ」


藤村 「おばあちゃんにもいいところはあったと思う」


吉川 「それは知ってるよ。だからこそ悲しんでるんだよ! いいところは今は関係ないんだよ。俺にいいところがあることくらい知ってるよ」


藤村 「そうは言うけど、悪いところも結構あるぞ?」


吉川 「どういう路線変更だよ。今の俺のメンタルにそれを言うの? 全然聞きたくないよ」


藤村 「じゃあ俺のいいところの話する?」


吉川 「なんで? ついでに自分のいいところを強請るなよ。ドサクサに紛れやがって」


藤村 「あー、そういうところお前の悪いところ」


吉川 「悪いところを言うなって! なんで言われなきゃいけないんだよ。そもそもお前は俺を慰めようとしてたんじゃなかったの? できてないけど」


藤村 「だって慰まれないから」


吉川 「慰まれないなんて日本語はないんだよ! なんかあるだろ! 気の毒だな、とか。いいおばあちゃんだったんだね、みたいな。共感の慰めが」


藤村 「そんなおばあちゃんも、お前の知らないところでは結構悪いところあったかもよ?」


吉川 「お前におばあちゃんの何がわかるんだよ! なんでおばあちゃんを下げるの!?」


藤村 「そんなにいいおばあちゃんでもなかったから、そこまで落ち込まなくてもいいよ」


吉川 「概念を逆転させて帳消しにしようとするなよ! そんな奇抜な方法で慰めるやつみたことないよ! おばあちゃんはいい人だったんだよ!」


藤村 「どうかなぁ? それだけ長生きして叩いて埃が出ないなんてありえないだろ? 時代的にも人権意識が低かったわけだし」


吉川 「一つずつ罪を数えさせるなよ! 閻魔大王かよ。そりゃ何かはあったかもしれないけど、今そこを詳らかにする必要ないだろ」


藤村 「とんでもないビッチだった可能性もあるぞ」


吉川 「人のおばあちゃんになんてこと言うんだよ! おばあちゃんと最も相性の悪い言葉をだよ、それは」


藤村 「お前にもそんなおばあちゃんの血が流れているけど、でもいいところもあるから」


吉川 「おばあちゃんの血こそが悪の根源みたいに言うな! いいところが逆に罪深さを強調することになるだろ」


藤村 「どうせババアなんてさ」


吉川 「なにかあったのかよ! 個人的におばあちゃんに恨みでもあるの? 俺のおばあちゃんとは関係ないからな。お前のババアと同一視するなよ」


藤村 「ババアなんて全部似たようなもんだよ」


吉川 「ババア属性を一種類に集約させるなよ。違うんだよ。少なくとも俺のおばあちゃんは!」


藤村 「確かに。お前のおばあちゃんは違うのかもしれない」


吉川 「そうだよ! いいおばあちゃんだったんだから」


藤村 「ジジイに唆されただけで自分が何をやってるかも知らなかったんだろうな」


吉川 「勝手におじいちゃんを悪の黒幕にするなよ!」


藤村 「でもそんなおじいちゃんにもいいところはあったよ」


吉川 「それじゃ慰まれないよ!」



暗転

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