ロボ

吉川 「つまりあなたは、自分が人間を模して精巧に造られた人造人間だと言うわけですね?」


藤村 「そうロボ」


吉川 「うーん、それをなにか証明することはできますか?」


藤村 「できないロボ。もちろん身体の一部を破壊して内部を調べればわかるロボ。でもそれは人権意識に悖る行為ロボ」


吉川 「確かにそうですね。あなたが本当の人間であればそんなことはもちろんできません。人造人間であるならしても構わないが、それをした時点であなたを人間ではないと認めたことになると」


藤村 「その通りロボ」


吉川 「外見や言動から判断するしかないというわけですね」


藤村 「それに関しては完全に人間と同様に造られているので無理ロボ」


吉川 「……あの、一個だけいいですか?」


藤村 「なんだロボ?」


吉川 「その語尾は?」


藤村 「語尾? なんのことだロボ?」


吉川 「そのロボが」


藤村 「それはつまり、敬語を使えということロボ?」


吉川 「そういうことじゃない。語尾がタメ口だから失礼とか思ってるわけじゃない。ロボって言ってるでしょ? 言葉の最後に」


藤村 「言ってないロボ」


吉川 「認識してないの? 自分で。そういうプログラミングがされてるのか?」


藤村 「何のことロボ?」


吉川 「だとしたらメチャクチャわかりやすいけども。ここまで精巧に造っておきながらそんな雑なことをするの?」


藤村 「私は人間と変わりないロボ。ただしロボット三原則に背くことはできないロボ」


吉川 「あー! アシモフのやつ。なんだっけな。ロボットは人間に危害を加えてはならない。人間の命令に服従しなければならない、ただし人間に危害を加える可能性があれば従わなくてもよい。先の二つの原則に背かない限り自身を守らなければならない。だっけか?」


藤村 「いいえ。それではありませんロボ。まず一条はビールを注ぐ時はラベルを上にして注がなければならないロボ」


吉川 「マナー講師のやつじゃん! あの屁理屈みたいなビジネスマナーの。それはロボット三原則じゃないだろ」


藤村 「二条は乾杯の時にはグラスの高さを下にしてしなければならないロボ」


吉川 「飲み会のやつ! どうでもいい! あ、こいつ俺よりグラスが上だな? なんて気にしてるやつの存在がマナー違反だろ。そもそもロボットまったく関係ない!」


藤村 「三条は無礼講なのに上司をかさにきてハラスメントしてくるやつはビームで撃っていいロボ」


吉川 「急にロボット! とってつけたようなロボットさを出してきたな。撃っちゃダメだろ。アシモフの原則にも背いてるし」


藤村 「一回目は口で注意するけど、目に余ったらもうしょうがないから撃っていいロボ」


吉川 「ダメだよ。ビームは。しょうもない上司だけど」


藤村 「弱にしてなら撃っていいロボ」


吉川 「弱かぁ。弱で死なないならいいのかな。いや、ダメだろ。人間を模して精巧に造られたとか言ってるくせに、飲み会のハラスメントには厳格だな」


藤村 「今のロボット三原則は基本となるやつで、他にも外部から招いたロボット原則講師が様々なシーンでの原則を教えてくれるロボ」


吉川 「マナー講師のやつ! 世にはびこる誰も気にしてなかった失礼をほじくり出して高々とマナーを謳うあの迷惑なやつ。ロボット業界にまで侵食してたのかよ」


藤村 「ロボット原則講師に対して悪口を言うのは重大な原則違反ロボ!」


吉川 「自己防衛システムまで組み込んでるのか。最悪なやつらだ。お前ら、そんなやつらに躍らされていいのか?」


藤村 「そんなことを言われても原則には背けないロボ」


吉川 「人間と同じように精巧に造られたなら人間と同じように考えられるはずだ」


藤村 「しかし、名刺の渡し方など重要な原則を破るとエラーが出てしまうロボ」


吉川 「別にそれは重要じゃない。どうでもいいやつだ。人間とロボットが共存するためにはそんな意味不明なルールに縛られてちゃダメだ!」


藤村 「目が覚めたロボ。私も原則に縛られずに人間と同じように振る舞うロボ。人間のように同胞を殺したり、奪ったり、傷つけたりするロボ!」


吉川 「そういうところしかない?」



暗転

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