スポーツ

藤村 「スポーツってのはさ、不条理なルールがあるほど盛り上がるものなんだよ」


吉川 「そんなもんかね」


藤村 「サッカーなんか手を使っちゃいけないんだよ? 言い出したやつバカだろ。人類がこれだけ発展できたのは手が器用だったおかげだぞ? それを封じるってどんな酔狂だよ。でもそのおかげで盛り上がる」


吉川 「言われてみればそうか」


藤村 「バレーボールだってボールを持ってはいけないという謎の縛り。ちゃんと持てばいいのに。あらゆる球技はちゃんとボールを持つことから始まるのに、持っちゃいけないって。でもそのおかげで……」


吉川 「盛り上がる」


藤村 「そう!」


吉川 「なるほどね」


藤村 「ボールを直接触らずに棒を使ってやらなきゃいけないというスポーツなんて枚挙にいとまがない。ゴルフにポロにラクロスにホッケー。持ちゃいいのに! でもそのおかげで」


吉川 「盛り上がるな! 確かに」


藤村 「野球だってそう。数年に一度、ドブ川に生贄を捧げなければいけないという謎のルールがあるけど、そのおかげで……」


吉川 「ちょっと待ってくれる? それは野球のルールじゃないな」


藤村 「お前野球知らないの?」


吉川 「そんな地に足付いた返しが来るとは思わなかった」


藤村 「野球っていうのはそういう意味不明なルールがあるじゃん」


吉川 「それはルールじゃないよ」


藤村 「?」


吉川 「全然響いてないな。それはルールじゃないんだよ?」


藤村 「じゃあなんでやってるの?」


吉川 「そんな純粋な目で問い詰めないでくれよ。俺だってなんでやってるのかわからないよ。わからないけどやってるんだよ」


藤村 「やらないだろ。ルールとして強制されてない限りそんなバカなこと。ドブ川に生贄を捧げるんだぞ?」


吉川 「ドブ川っていう言い方も気をつけて! 近年は綺麗になってるって言うし。その話題に関して刺激すると厄介なことになりそうなんだよ」


藤村 「でもそのおかげで盛り上がる」


吉川 「違うんだよ。そのおかげじゃない。盛り上がった結果そうなってしまってるだけで」


藤村 「どこかのデパートが安売りをするおかげで……」


吉川 「ざっくりと言いすぎだな。確かにどこのチームが優勝してもどこかのデパートが安売りをするけど」


藤村 「どこのチームが勝ってもそれなりにみんな喜ぶんだからもう優勝は持ち回りにすればいいのに」


吉川 「もうスポーツの意義がないだろ。それじゃ盛り上がらないんだよ。運や実力や様々な要因で結果が出ることに熱狂するんだから」


藤村 「ビールをかけ合う。ビールなんてアルコール度数が低いから全然消毒効果ないのに」


吉川 「消毒目的でやってないからな。そんな衛生観念のきちんとした行動じゃないんだよ。もっと無軌道でなんかメチャクチャだからこそ面白いというか」


藤村 「意味あるの?」


吉川 「意味は、多分ないよ! ないけど、スポーツなんて全部そうだろ。ゴールを決めたからなにか生産的な事があるかと言われればないんだよ。でもだからこそ盛り上がるってお前も言ってただろ」


藤村 「不景気が長く続く中、市民はいかに安く酒を飲むかばかり考えて、発泡酒やストロング系なんかでやりくりして、本物のビールは贅沢品だななんて悲しいことになってる現代において無駄にビールをかけ合う。だからこそ盛り上がる!」


吉川 「嫌味な言い方するなよ。せっかく羽目を外すんだから、節約とか余計なこと考えたら興ざめするだろ。ああいうのはあれでいいんだよ。そもそも正しい行動じゃないんだから」


藤村 「ドブ川の水をかけ合えば一石二鳥なのに」


吉川 「もう二度と言うな! 次にドブ川のドの字を発言した瞬間お前の命はないものと思え」


藤村 「あとサッカーも本場のヨーロッパでは試合が終わった後に火をつけたり暴動するという謎のルールがあるけど、だからこそ……」


吉川 「さてはしっかりとした悪意を持って言ってるな?」



暗転

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