ランナーズ・ハイ

吉川 「どうしたんだよ? なんか情緒おかしいぞ?」


藤村 「ごめん。どうもランナーズ・ハイになったみたいで」


吉川 「ランナーズ・ハイ?」


藤村 「急いでここまで走ってきたんだけど、そのせいでいい感じになっちゃって」


吉川 「ランナーズ・ハイってマラソンとかやってる人がなるものでしょ?」


藤村 「そう、それ。俺は短距離でもすぐになれるんだよね」


吉川 「そういうものなの?」


藤村 「俺はそう。他の人は知らないけど」


吉川 「ここまで走ってきたわけじゃないよね?」


藤村 「電車」


吉川 「じゃ、駅から? そんなにないよ?」


藤村 「駅から。途中コンビニ寄ったけど」


吉川 「駅、そこだよ? 見えるもん」


藤村 「なっちゃった。ランナーズ・ハイに」


吉川 「そんな感度3000倍みたいなことあるの?」


藤村 「もうなんか自分を抑えられないんだよね。さっきコンビニでセロリ買っちゃった。食べられないのに」


吉川 「セロリをコンビニで!? それもおかしいし食べられないセロリを」


藤村 「育ってきた環境が違うから好き嫌いは否めないのに」


吉川 「ドサクサに紛れて一節歌っちゃって。もうなんか目がパッキパキで怖いんだけど」


藤村 「今ならセロリもいけそうな気がしたんで」


吉川 「ハイになりすぎて好き嫌いも克服しちゃったんだ」


藤村 「セロリいける?」


吉川 「料理してればあれだけど、生は無理だな」


藤村 「育ってきた環境が違うから?」


吉川 「やかましいな!」


藤村 「ぅべっ! やっぱダメだわ。まずい」


吉川 「直は厳しいだろ、さすがに」


藤村 「ちょうどランナーズ・ハイが切れてきたのかもしれない。元気もなくなってきた」


吉川 「エネルギーの分配をもうちょっと考えて生きろよ」


藤村 「どんどん生きる気力がなくなってきた。こんなに人生辛いのにセロリが存在する意味もわからない」


吉川 「ランナーズ・ロウになってる。ちょっとその辺走ってきたら?」


藤村 「そんな面倒くさいことなんでしなきゃいけないの?」


吉川 「確かにそう言われりゃそうだけど。そんな躁鬱の激しいやつと一緒にいたくない」


藤村 「なにか早急にハイになることをしなければ。手っ取り早くハイになれる薬とか持ってない?」


吉川 「それを持っていたら犯罪だろ。そんな直接的な聞き方他の人にするなよ、危なっかしい」


藤村 「そう言えば駅の側にキンコーズがあった。キンコーズ・ハイになれるかもしれない」


吉川 「キンコーズ・ハイもあるの!? それはどういう仕組みでハイになるわけ?」


藤村 「わかんないけど、キンコーズってくらいだからなんかエッチな要素が」


吉川 「ないよ! キンコーズにエッチな要素は。基本的にオフィス関連だろ」


藤村 「あ! そう言えばコンビニに虫コナーズがあった! 虫コナーズ・ハイになれるかも!」


吉川 「虫コナーズにそういう成分ないだろ! ◯◯ーズだと何でもいけると思ってる?」


藤村 「そっか。虫コナーズだと成分が効いてロウになっちゃうか」


吉川 「それは虫だろ。お前が虫だって言うならそうかも知れないけど」


藤村 「駅の中にタリーズコーヒーもあったな。あそこでタリーズ・ハイになれる!」


吉川 「まぁ、コーヒーには高揚する成分が入ってるからな。今までの提案の中では一番まともだ。少なくとも虫コナーズよりは」


藤村 「もうダメだ。身体がハイを求めてる。行ってくる」


吉川 「廃人みたいになってる。あんなに危ないやつだったとは」




藤村 「参ったよ! タリーズかと思ったらドトールだった。ドトールじゃただのコーヒーだよ」


吉川 「タリーズもただのコーヒーなんだよ。でも目がパッキパキだぞ」


藤村 「走って買ってきたら途中でランナーズ・ハイが来ちゃって」


吉川 「どの道なんだっていいんじゃねえか」


藤村 「ハイになりすぎてコンビニでセロリ買っちゃった」


吉川 「なんでだよ! 一度やってダメだったんだから懲りろよ!」


藤村 「今ならいける気がするんだよ!」


吉川 「さっきもそう言ってたよ。判断力がハイでゴミになってる」


藤村 「ぅえぇ! まずい!」


吉川 「だろ。知ってたよ、その結果」


藤村 「マヨネーズ・ナイ?」


吉川 「ないよ!」



暗転

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