結婚式

吉川 「ブーケトスはあらかじめ良子に取らせるようにするから」


藤村 「どういうこと?」


吉川 「サプライズで、良子が取ったあとで良子の彼がその場でプロポーズをするって流れ。他のみんなも知ってる」


藤村 「あ、そうなの? じゃあそのサプライズのブーケトスはいいとして、本当のブーケトスは?」


吉川 「そんなに何回もしないでしょ」


藤村 「え? 権利は? ブーケトスを受け取る権利はみんなにあるはずじゃん?」


吉川 「いや、だから。今回はそれはなしってことで」


藤村 「なしってどういうこと? ご祝儀払ってるんだけど」


吉川 「え?」


藤村 「ご祝儀払ってるのに勝手になしですって、じゃあ何のために払ったの?」


吉川 「ブーケトスのために払ってるわけじゃないでしょ」


藤村 「ためだよ?」


吉川 「ためなの!? ブーケトスに? その代金みたいな感じでご祝儀包んでたの?」


藤村 「他の人はほら、料理とかかもしれないけど」


吉川 「いや、祝う気持ちじゃない。何かの代金じゃないから」


藤村 「でもブーケトスできないなら、2万くらい返してもらわないと」


吉川 「ブーケトスって別に自分が取れるわけじゃないじゃん? ほら、別の人が取る可能性があるわけで」


藤村 「だからその期待値に対して、こっちは料金を支払ってるわけでしょ? まったく玉は出ませんけどビカビカしますっていうパチンコを誰がやるの?」


吉川 「ギャンブルだと思ってたの? 他人の結婚式を?」


藤村 「大きい音も鳴るしビカビカ光るし、ジャンルとしては一緒だよね」


吉川 「全然かけ離れたジャンルだと思うけど? 結婚式は愛じゃん!」


藤村 「どうせすぐ別れるのに?」


吉川 「なんでそういうこと言うの? 別れない人たちだっていっぱいいるよ!」


藤村 「よし! じゃあ別れるかどうかで賭けるか」


吉川 「ギャンブル! 持ち込むなよギャンブルを! そんな賭けするわけないだろ」


藤村 「負けるからだろ? お前も本心ではどうせすぐ別れるってわかってるから」


吉川 「もうそういう話題を話すこと自体が失礼じゃん。これから結婚しようとしてる二人に」


藤村 「だからだろ。結婚自体がギャンブルみたいなものじゃん」


吉川 「おぉ! 前提から来たか。お前はそう思ってるかも知れないけど、当人たちはそうは思ってないから」


藤村 「じゃあなんでこんな大当たり演出みたいな会をやるの?」


吉川 「大当たり演出みたいな会だと思ってたの? 言われてみればそんな気もしてきたけど、やっぱりそうじゃないよ」


藤村 「ブーケを取ったら確定なわけじゃん?」


吉川 「そういうシステムで回ってると思ってたのか。次回の結婚式が確定する激アツ演出だと」


藤村 「特に今度の式場はグランドオープン直後だからって口コミでも話題になってる」


吉川 「どういう界隈だよ! 結婚ギャンブラーみたいな尖った思想のやつ他にもいるのかよ」


藤村 「それが出来レースでブーケを受け取る人間が予め決まってるってと知った俺の気持ちがわかるか!?」


吉川 「そもそも結婚式に挑む気持ちが共感できてないから、想像もつかない」


藤村 「そんな手があったなんて、と目からウロコが落ちる勢いだよ!」


吉川 「そっち側!? 八百長ありと知って、あり側に滑り込もうとしてるの?」


藤村 「わかってる。簡単にはいかないことくらい。あれだろ? 反社が絡んでるんだろ?」


吉川 「絡んでないよ! 結婚式利権なんてないから」


藤村 「立場上そう言わなきゃいけないこともわかってるって。じゃあここからは大人の話し合いだ」


吉川 「人の話を全然聞かないな。そんなシステムじゃないんだよ!」


藤村 「わかってるって。まずは情報収集から始めるよ。式場のそばにある引き出物を買い取ってくれる謎の小屋を探すか。どうせ教えてくれないだろ?」


吉川 「さぁ? でも皆さんあちら側に歩いていきますね」



暗転

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