整いました

藤村 「政治家の不祥事と掛けましてー」


吉川 「お、掛けまして?」


藤村 「ん~」


吉川 「ん?」


藤村 「掛けました」


吉川 「終わった。唐突に。何が起こったの? 掛けただけで終わったけど?」


藤村 「掛けるところまではなんとかできたんだけど」


吉川 「掛けるところまで。そこは別に誰だってできるんじゃない?」


藤村 「いいと思ったんだよ。政治家の不祥事っての。なんか頭良さそうなテーマじゃない? ビシッと風刺を利かせたら格好いいなっていうワードが出たんだよなぁ」


吉川 「一個目で満足しちゃったんだ?」


藤村 「しちゃった。言った瞬間、キマったな! っていう確かな手応えがあったから」


吉川 「手応え感じるの早すぎるよ。何も手にしてないのに」


藤村 「やっぱりこういうのって二個思いついてから言うものなの?」


吉川 「そうだよ。思いついたところで整うんだから」


藤村 「整ってはなかった。整ってなかったけど、荒削りな良さはあった」


吉川 「整えるものなんだよ。美大の受験生じゃないんだからさ、荒削りな良さのみで乗り切るやついないよ?」


藤村 「わかった! 政治家の不祥事と掛けましてー」


吉川 「お、政治家の不祥事と掛けまして?」


藤村 「おにぎりと解きます」


吉川 「その心は!?」


藤村 「え、心?」


吉川 「うん、心」


藤村 「急にそんなこと言われてドキドキしてるけど」


吉川 「お前の心境じゃないよ。心を言うだろ、普通」


藤村 「心を? 政治家に心なんてある?」


吉川 「あるだろ、そりゃ。その心じゃないけど、大雑把な批判もやめろよ。政治家にだって心はある」


藤村 「おにぎりにも?」


吉川 「おにぎりにはないけど、おにぎりの心じゃなくて、二つを掛けた心だよ」


藤村 「おにぎりと政治家の? キメラ的な?」


吉川 「生物学的に掛け合わせるなよ。怪人じゃないんだから。掛けた心があるだろ」


藤村 「そんなの知らないよ」


吉川 「そんなの知らないなら言うなよ!」


藤村 「難しいんだよ。そんな心理的な洞察力も必要だと思ってなかったから」


吉川 「その心じゃないんだって。二つに共通する要素のことを心っていうんだよ」


藤村 「え!? じゃあ俺が持っているこの心も……」


吉川 「その心はその心だよ! 初めて心を認識した人造人間かよ。謎掛けによって生まれたまったく新しい生命なの? 心って言うとややこしいけど、便宜上心って言うことになってるんだよ」


藤村 「あれ? 整ったかも」


吉川 「本当か? システムを理解してるか?」


藤村 「政治家の不祥事と掛けましてー」


吉川 「掛けまして」


藤村 「万引きと解きます」


吉川 「うん。万引き。その心は?」


藤村 「どちらも犯罪でしょう!」


吉川 「合ってる。合ってはいる。でも合ってるだけ! システム的には合ってる。合ってる以外の加点が何もない!」


藤村 「上手くいったなー」


吉川 「それで上手くいったと思ってるなら、俺がどうこう言う話じゃないけど。意外性みたいなのが謎掛けの面白味じゃない? ないよね、意外性」


藤村 「そんなことないだろ! 政治家がみんな不祥事してるみたいに言うなよ」


吉川 「そこを突いてないよ! そんな社会派じゃない。謎掛けとしての意外性。その二つが!? みたいなの。近い二つを出されても同じだなって感想しかない」


藤村 「注文がどんどん複雑になってくな」


吉川 「なってないんだよ。最初からそうなんだから。その距離感を楽しむことで味わいが生まれるんよ」


藤村 「じゃあ、政治家の不祥事と掛けましてー」


吉川 「掛けまして?」


藤村 「本来の生態系の外部から持ち込まれ、既存の生態に影響を与えるることから、生物の多様性を守るという視点により近年では非常に問題とされている外来種と解きます」


吉川 「切れ味が悪い! もうちょっとスマートに言えるだろ」


藤村 「せっかく考えたのに切れ味なんて追加要素を入れてくるなよ!」


吉川 「もっとタイトに。スパッと言い切るから気持ちいいんだよ」


藤村 「切れ味よければいいんだな?」


吉川 「ダラダラ長いよりは全然いいよ」


藤村 「政治家の不祥事と掛けましてー」


吉川 「掛けまして?」


藤村 「バネで頭が動く人形と解きます」


吉川 「その心は?」


藤村 「首はねていいでしょう」


吉川 「切れ味の良さしか考えてない!」



暗転

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