パンク

藤村 「なんでだよっ!? パンクは嫌か?」


吉川 「別にパンクが嫌いなわけじゃないよ。昔はよく聞いてたし」


藤村 「だったら組もうぜ、パンクバンド」


吉川 「でもなぁ」


藤村 「ドラムやってたんだろ? バンドなんてドラムとベースさえちゃんとしてればそれなりに聞けるんだから」


吉川 「そうだと思うよ。特にパンクなんかは上モノは多少荒があっても味になるし」


藤村 「だったら一緒に目指そうぜ!」


吉川 「その目指してるのがさ」


藤村 「何がいけないんだよ? 一緒に健康目指そうぜ!」


吉川 「普通、健康目的でパンクバンド組む?」


藤村 「どうしても健康になりたくない理由でもあるのか?」


吉川 「それはないよ。健康はむしろなりたいよ」


藤村 「だったら一緒にてっぺん目指そうぜ!」


吉川 「ゴールは別にいいんだよ。問題ない。ただルートがおかしい。一旦破滅を経由してから健康に向かうやついないだろ」


藤村 「おかしいことなんてあるか?」


吉川 「パンクはさ、健康から遠いやつじゃん。むしろ健康なんて知ったこっちゃないぜ、太く短く生きてやる! みたいな衝動が大事なんじゃないの?」


藤村 「俺は太く長くの方がいいけど」


吉川 「そりゃそっちがいいよ、誰だって。できるなら。できないから細く長くより太く短くを選ぶって話だろ」


藤村 「今は医学も発展してるから」


吉川 「生物学的な話じゃなくて。生き様と言うか精神の問題だろ」


藤村 「生きる衝動っていうのは突き詰めると健康のことだよ」


吉川 「突き詰め過ぎなんだよ。その過程で色々削ぎ落ちたものの方がパンクで重要だろ」


藤村 「に、尿酸値?」


吉川 「それは健康に含まれろよ。健康なんて気にせずに享楽的にただ今の瞬間を生きるっていう姿勢の方がパンクじゃん」


藤村 「俺は今この瞬間も関節が痛い」


吉川 「運動不足だからだよ。バンドで体を動かすのはいいけど、パンクじゃなくていいだろ。もうちょっと健康志向な音楽なんていくらでもある」」


藤村 「今この瞬間の痛み苦しみ、それを叫ばずにはいられない!」


吉川 「心で痛めよ! 関節の痛みを訴えられても共感しづらいだろ」


藤村 「だから健康! 誰も止められない、この俺の衝動!」


吉川 「パンクのある種の野蛮さが認められるのは若さ故なんだよ。ジジイが健康目的でやるならちゃんとしろって思うだろ」


藤村 「健康のためならなりふり構っちゃいられない!」


吉川 「健康なんてなりふりから始まるんだよ。そういうちゃんとした部分が人間関係の健全化にも繋がって精神の健康にもなる」


藤村 「そんな汚い大人たちの言うことなんて聞いてられないぜ!」


吉川 「聞けよ。多分その汚い大人たちはお前より年下だよ」


藤村 「医者なんていつも『歩け』しか言わない! そんな世界ぶっ飛ばしてやる!」


吉川 「じゃあ歩けよ。パンクじゃなくて」


藤村 「駆け抜けたいんだよ! このぶっ壊れた膝と腰で!」


吉川 「訴えがちょっと情けない。共感より同情しちゃう。お大事にって声かけたくなる」


藤村 「なんでわかってくれないんだ! いつだってそうだ。俺を反逆者だと笑うならそれでいいさ」


吉川 「反逆者なんて格好いいものだと誰も思ってくれないよ。ジジイになって理性のタガが外れてきた迷惑なやつだと思われてる」


藤村 「だったらどうすりゃいいんだよ! 健康になりたい! NO MORE 病院の待合室!」


吉川 「周りに訴えるよりもまず自分自身を省みることから始めろよ。それが健康への一番の道だよ」


藤村 「わかった。それは心がけよう。でも俺のあふれるパンク魂を抑えることはできない!」


吉川 「まず朝ちゃんと起きて、掃除とか身の回りをきちんとして、ご飯も好き嫌いせずに多品目を食べるようにしろ」


藤村 「そうしたら一緒に目指してくれるか? ていねいなパンク!」


吉川 「そんなパンクはねぇ!」



暗転

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