仮装

吉川 「……で、あなたは何なの?」


藤村 「わかりませんかね?」


吉川 「わからないから聞いてるんだよ」


藤村 「羊羹大好きおじさんです」


吉川 「羊羹大好きおじさん。……それは何なの?」


藤村 「羊羹が大好きなおじさんです」


吉川 「助詞が増えただけ。それはわかるんだよ。そもそも何なんだよ?」


藤村 「そもそも何なのかは我々もよくわかってなくて。むしろこっちが聞きたいくらいで。たとえば神様ってそもそも何なんですかね?」


吉川 「神様なの?」


藤村 「神様というか、妖精というか、妖怪というか、その説明のつきづらい存在なんですよ。それがそもそも何かと言われると、こっちもわからなくて」


吉川 「妖怪なの?」


藤村 「そもそも妖怪って何ですかね?」


吉川 「概念の話じゃなくてさ。それは何? アニメとかマンガのキャラなの?」


藤村 「いや、アニメにはまだなってないです」


吉川 「いるの? そういうのが?」


藤村 「そういうのというと?」


吉川 「だから、羊羹大好きおじさんってキャラが」


藤村 「これがそうですが」


吉川 「それはそうだろうけど。知られてるの、世間一般に?」


藤村 「どうでしょう? たとえばあなたはディオゲネス知ってます?」


吉川 「知らない。何か関係あるの?」


藤村 「古代ギリシアの哲学者なんですが、哲学をやってる人なら誰でも知ってます。逸話もユニークなものが多くて一度聞いたら忘れない人です。でも一般的な知名度はと言うと、あなたが知らないことでも推し量れますよね」


吉川 「羊羹大好きおじさんもそういうこと?」


藤村 「まぁ、わかりやすい例ですけど」


吉川 「ただの羊羹大好きなおじさんなんだろ?」


藤村 「いいえ。思いの外羊羹が大好きなおじさんです」


吉川 「思いの外はってなんだよ。思ったことないよ、おじさんの羊羹大好き度を」


藤村 「本当に思いの外羊羹大好きなんで。毎回新鮮にビックリするくらい」


吉川 「それはお前の思い方だろ。世間一般の人はおじさんの羊羹大好きさを思って生きてないから」


藤村 「でしょ? でもそれを遥かに超えて思いの外羊羹大好きなんです」


吉川 「知らないよ! いや、別にね。羊羹大好きおじさんがどういうキャラなのかどうかはどうでもいいのよ。問題は格好なんだよ。いくらハロウィンだからと言って」


藤村 「羊羹大好きおじさんと言ったらこうですけど?」


吉川 「そうなの? そんな短い、なにそのスカート?」


藤村 「シークレットガードです」


吉川 「なんだよ、シークレットガードって」


藤村 「シークレットをガードする装備です」


吉川 「ミニスカートだろ!」


藤村 「え? ミニスカートのことをシークレットガードって言うんですか?」


吉川 「言わないよ! 言わないけど、それは世間一般ではミニスカートって呼ばれるだろ」


藤村 「シークレットガードはシークレットガードですから。素材も全然違うし」


吉川 「素材とかを問題視してるんじゃないんだよ。卑猥なんだよ!」


藤村 「他にもいますけど。似たような格好の人。ハロウィンだし」


吉川 「そうだけどさ! そのシークレットガードの下が問題なんだよ! 履いてないだろ!」


藤村 「いや、シークレットーガードの奥は、ネタバレになるんで」


吉川 「なんだよ、ネタバレって!」


藤村 「ネタバレなんで言うわけにはいかないですけど」


吉川 「通報があったんだよ。そのネタバレがチラチラ見えてるって!」


藤村 「ネタバレが!? それはその人が悪いんじゃ」


吉川 「見せてるだろ、お前が!」


藤村 「いいえ。ネタバレは見せませんよ。もうこればっかりは見る人が悪い」


吉川 「そんな短いシークレットガードでチラチラさせてたら見るだろうが!」


藤村 「ではミニスカの女性は全員パンツ見せてるんですか? パンツを見ようとする人より見せてる人が悪いんですか?」


吉川 「見せてないだろ! それは見えちゃってるだけで」


藤村 「同じでは?」


吉川 「違うだろ! そもそも履いてないだろ!」


藤村 「履いてるか履いてないかもネタバレに関わるんで言えないです」


吉川 「理屈でやりこめようとするなよ! 羊羹大好きおじさんのくせに!」



暗転

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