感謝

吉川 「本当に感謝しても、し足りないよ」


藤村 「どういたしまして。ただまぁ、確かにちょっと足りてないかもしれないですね」


吉川 「え……」


藤村 「ほんの少しです。足りてないなぁとは私も感じてましたけど、このくらいならまぁ大目に見ようかなって思いました。自覚あったんですね、足りなかったという」


吉川 「ものすごい助かったよ! 本当にありがたかった! 心の底から感謝してる!」


藤村 「なるほど、追い感謝でなんとか間に合わせようと?」


吉川 「いや、追い感謝ってなに? し足りないっていうのは、そのぐらいこっちは感謝してるという気持ちを表現したまでで」


藤村 「最初の感謝で適切な量だったと? ご自身で足りないとおっしゃったのに。今更そう覆すんですか?」


吉川 「覆すって言うか。感謝足りなくて不満でした?」


藤村 「だから不満という程じゃないんです。ちょっと足りないなぁってくらいで。ファーストフードで、今日ポテト少ないなって思ってもクレームつけるほどじゃない足りなさってあるじゃないですか。そんな感じです」


吉川 「あの、そもそも感謝に対してそんな厳密に量を求めてるの?」


藤村 「なるほど。つまり常日頃からどんぶり勘定で感謝していたというわけですか。受けた内容なんかどうでもよく、形式だけ感謝をしておけばいいだろという考えで」


吉川 「そんなことはないけど。感謝ってそんな数値化できるものでもなくない?」


藤村 「できないからしなくていいや、と。ちょっと多めだけどいいか、とか。この間多めにしておいたから今回は節約しておくか、みたいな。そうやって雑に感謝を扱ってるんですね」


吉川 「雑っていうか感謝は感謝としてきちんとしてるつもりだけど」


藤村 「つもり、でやってたんですね。今まで感謝を。特に省みることもなく」


吉川 「これからは不足することのないように気をつけるよ」


藤村 「具体的にどう気をつけるんですか? 感謝の量とか気にしたことないんでしょ?」


吉川 「だからその、思ったよりちょっと多めに感謝するようにします」


藤村 「多けりゃ文句言わないだろって気持ちが透けて見える。もはや感謝じゃなくて文句言われないように体裁だけ整えてるだけ」


吉川 「そんなことないのに! すごい詰めてくるな」


藤村 「もう少し他に言いようがあると思いますけどね」


吉川 「してるつもりなんだけど。でも感謝を超える熱量を伝える言葉とかないから」


藤村 「ありますよ?」


吉川 「超嬉しい! みたいの?」


藤村 「感謝で言えば活用形でその量が違うじゃないですか。感謝<感激<雨<アラレ」


吉川 「あれってそう言う意味だったの!? ただリズムが良いから言ってるんじゃなくて?」


藤村 「感激です。って言われたら感謝よりも相当上だなって感じるじゃないですか」


吉川 「感激まではわかる。雨は? 雨で伝わる?」


藤村 「感激よりもさらに上なんだなって思いますよ。もう雨に比べたら感謝なんてゴミみたいなもんですよ」


吉川 「ゴミみたいなものになっちゃうの? 感謝も感謝でちゃんと伝わって欲しいんだけど」


藤村 「あなたなんかどんぶり勘定でどんな時でも雨って言えばいいと思ってません? ちょっと物を拾ってくれたくらいで雨とか言われたら逆に怖いですよ。なんか裏があるんじゃないかなって思っちゃう」


吉川 「雨、で通じる?」


藤村 「逆に怖いですね」


吉川 「そうじゃなくて。そのくらい通じてるってことなんだ。アラレは?」


藤村 「正直、アラレは使う機会ないと思います。命を犠牲にしてくれた時のレベルじゃないですか」


吉川 「そうなの? アラレはそこまで? それは日常で使えないな」


藤村 「臓器の提供を受けたとか、そんな時くらいしか使い道ないんじゃないかな」


吉川 「なるほど。把握した。これで足りないことがないように、上手く使っていけるよ。教えてくれて雨!」


藤村 「……降ってませんけど?」


吉川 「自分の言動に責任を持てよ!」



暗転

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