世代

藤村 「どうもありがとう。こんな物をいただけるとは」


吉川 「いえいえ」


藤村 「こんな、ね。こんなあの、何かをもらえるとは」


吉川 「お気に召していただければいいんですが」


藤村 「いやもう、こんなね。こういうのは本当にもう、すごいからね」


吉川 「あ、それアロマキャンドルです」


藤村 「そう! ちょうどアノマロカリス欲しかったんだ」


吉川 「いえ、アロマキャンドルです」


藤村 「アノ? なに?」


吉川 「アロマの。匂いの」


藤村 「もうこの年になると臭いのが好きになってね。もうクサヤとかがたまらなくて」


吉川 「いえ、臭いと言うか、アロマの。結構いい匂いの」


藤村 「あぁ、そういうの。あー、なるほど。若い人が好みのやつ?」


吉川 「どうだろ、世代問わず比較的皆さん好きなんじゃないかと」


藤村 「そう。そっか。柔軟剤みたいなものってわけね」


吉川 「いや、ろうそくです」


藤村 「ろうそくなの? なんだ、ろうそくなら最初から言ってよ。なんかわかんなかったから。じゃ、仏壇に使うよ」


吉川 「あ、いえ。仏壇でもいいんですけど、普段からでも」


藤村 「ひょっとして、うちに電気が通ってないと思ってる?」


吉川 「違います」


藤村 「未開人が槍持って狩猟の喜びをダンスで表現してると思ってる?」


吉川 「全然思ってないです」


藤村 「なんでそのアルマナックを知らないだけでそんな風に思われなきゃならないの?」


吉川 「そんなこと思ってないですって。アロマキャンドルです」


藤村 「ほら、また小馬鹿にした。知らないからって。じゃあ逆にお前はなにを知ってるわけ? 俺の世代なら常識的なことでも知らないことあるだろ!」


吉川 「まぁ、それはあると思いますけど」


藤村 「あるはずだよ! その、色々あるはずだよ! 具体的に今でないけど、あるはあるだろ!」


吉川 「あ、昔の。シティポップとか?」


藤村 「そうだよ! そのシティポップとか知らないだろ! TMネットワークとか!」


吉川 「いえ、TMネットワークはシティポップじゃないです」


藤村 「知ってるなよ! なんでお前が知ってる感じで語ってるんだよ。俺の世代のことだろ」


吉川 「たまたま知ってて。トレンディドラマとか?」


藤村 「あー、あった! そういうのあったよ! 見てなかったけど」


吉川 「見てませんでした? いまでもサブスクで見れるのありますよ」


藤村 「俺の時代のカルチャーを横取りするなよ! なに見てんだよ! 俺が見てる方のやつだろ!」


吉川 「でも見てなかったんでしょ?」


藤村 「見てなかったけど、お前に見られる筋合いはないんだよ!」


吉川 「筋合いなんてないと思いますけど」


藤村 「最近すぎる。もっと前の。お前が生まれる前のカルチャー。ほら、あるだろ。応仁の乱とか」


吉川 「お互いに古すぎて知らないんじゃないですか?」


藤村 「お? 知らない? 応仁の乱のこと知らないの? 乱がすごいってもちきりだったのに」


吉川 「本で読んだ程度でしか。最近は途中で元号が変わったので応仁・文明の乱っていうらしいですよ」


藤村 「なんで知ってるんだよ! お前の世代じゃないだろ!」


吉川 「あなたの世代でもないですよ。学んだことは知ってます」


藤村 「誰の許可を得て学んでるんだよ!」


吉川 「中世の教会みたいなこと言い始めた。たまたま知ってるだけで」


藤村 「知らないことの何が悪いんだよ! 知らねーよ、こんなアナルプラグだかなんだか」


吉川 「なんですかそれ?」


藤村 「お? ひょっとして知らない? なんて言ったっけ?」


吉川 「アナルプラグって」


藤村 「知らない?」


吉川 「知らないです」


藤村 「あぁ、なぁんだ? そんなことも知らないのかぁ? 我々の世代じゃ常識だけどな! もうみんなやってるから!」



暗転

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