整体

藤村 「こういう整体に来るのは初めてですか?」


吉川 「はい。初めてです」


藤村 「現時点でどこか気になるところあります? ここが痛いとか」


吉川 「すごく痛くてどうしようもないってのはないんですけど、全体的に疲れやすくて」


藤村 「お仕事はデスクワークですか?」


吉川 「基本的にはそうです」


藤村 「定期的な運動なんかはされてます?」


吉川 「いや、全然ですね。通勤で歩く程度で」


藤村 「そうですか。ではちょっと診てみましょうかね。身体の方をぐっと曲げて。あ、ひょっとして結構硬いですか?」


吉川 「硬いんですよ、身体」


藤村 「だったら全体的にほぐしていきましょうかね。ちょっと前屈をしてみましょう。こちらで」


吉川 「あ、ここですか?」


藤村 「はい。いけるところまでグーッと板を押していって。……もう無理ですか?」


吉川 「もう無理です」


藤村 「床つかないですね。-12cm。これは一般的にも硬い方ですね。ここからほぐしていきますので、最終的にどのくらいまで柔らかくなるか」


吉川 「いけますかねぇ」


藤村 「じゃあこっちに寝てもらって。あー、骨盤も歪んでますね。ほら、右足と左足の長さがちょっと違うのわかります?」


吉川 「違うんだ」


藤村 「ずーっと同じ姿勢でいると身体が徐々にこうなってしまうんです。こうすると痛いですか?


吉川 「痛いというか、なんだろ。大丈夫ですけど」


藤村 「痛気持ちいいくらいですか?」


吉川 「あ、そんな感じです」


藤村 「こうすると痛気持ち悪いですか?」


吉川 「痛気持ち悪い? 痛いってことですか?」


藤村 「いや、気持ち悪さあるなぁって。痛い上に粘着性の液体に塗れたような」


吉川 「それはないです。その感覚を今まで一度も味わったことないし」


藤村 「これは? からの、これは? と見せかけてこれは? こっちとこっちのこれは?」


吉川 「なんですか、チョコチョコと。ちゃんとやってくださいよ」


藤村 「どうです? ウザ気持ちいいです?」


吉川 「ウザ? そういうのあるの? 確かにウザいけど。やらなくていいでしょ、それは」


藤村 「ウザ気持ち悪いほうがよかったですか?」


吉川 「それはもう、いいところ何もないだろ。単なる嫌がらせだよ」


藤村 「あとものすごく臭いお灸もあるんですが、臭気持ちいいのどうです?」


吉川 「気持ちいいをつければ何でもまかり通るわけじゃないんだよ。臭いんでしょ? 嫌だよ」


藤村 「でもこの臭さがたまらないっていう人もいます。シュールストレミングみたいな」


吉川 「個人の趣向は否定しないけども。そんなに臭いの?」


藤村 「もう臭ストレミングです」


吉川 「なんだよ、臭ストレミングって。気持ちよさ消えてるじゃない。臭さしか残ってない」


藤村 「あとご希望なら針の方もあるんですよ。ただ勘でやるんで針怪しいです」


吉川 「ダメだろ、針怪しいのは! 違法治療をするなよ! ちゃんと免許とかとれよ! 怖いな」


藤村 「末恐ろしいですか?」


吉川 「末じゃなくて現時点で十分に恐ろしいよ。普通の! できるやつで!」


藤村 「でもこうしてる間にみるみるほぐれてますよ。見てください。術衣のこの部分なんてこんなに皺くちゃになってる」


吉川 「それをほぐれのバロメーターにしてるの? チョイチョイ余計なことしてるようにしか思えなかったけど」


藤村 「じゃあもう一度こっちで前屈をしてみます? 前回は-12cmでしたけど」


吉川 「はいっ!」


藤村 「でました! えーと、-10cmです」


吉川 「あんまり変わってないな。このくらいは誤差じゃないの?」


藤村 「もうちょっといくと思ったんですけど、お客さんが硬気持ち悪かったんで」


吉川 「なんだよ、硬気持ち悪いって。それを治すのが仕事だろうが!」


藤村 「マジうるさいですね」


吉川 「それは単なる悪口だよ!」



暗転




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