偏見

吉川 「でも経済の格差とかさ、未来に対する不安なんかも無関係じゃないと思うんだよ」


藤村 「だからといって犯罪を肯定するのか?」


吉川 「そんなつもりはないよ。ただ犯罪にも色々あるからさ」


藤村 「あのさ、一応言っておくと、そういう偏見が一番いけないって言ってるんだよ」


吉川 「偏見? いや、偏見はないつもりだけど」


藤村 「貧困な人がみんな犯罪者予備軍かというとそんなわけはないだろ?」


吉川 「そりゃそうだよ。人それぞれ。だけど原因としてあるのも事実だから」


藤村 「お前のその考えは金銭の問題や不安なんかがある人は犯罪を犯してもしょうがないって言ってるようなものだよ」


吉川 「そこまでは言ってないよ」


藤村 「それは偏見なんだよ。自分では気づいてないだけで」


吉川 「そんなことないと思うけど」


藤村 「想像してみろよ。お前のその考えを聞いてさ、世間の真面目な極悪人がどう思うか」


吉川 「ん?」


藤村 「一緒にするなよって思うだろ?」


吉川 「待って。ん? 誰が?」


藤村 「だから真面目にやってる極悪人だよ」


吉川 「んん? 真面目にやってる極悪人って、犯罪とかを?」


藤村 「そう言ってるだろ。そいつらがただの貧困層と一緒にされてさ。社会不安のせいだとか勝手な理由を押し付けられて。その偏見と戦わなきゃいけないんだよ!」


吉川 「待って。極悪人? 犯罪者がどう思うかって話?」


藤村 「そういう偏見の話だよ。そんな目で見られて嫌な気分になるだろ。ただ純粋な悪意でやってるだけなのに」


吉川 「そっちを擁護するの? なんか寄り添う側が間違ってない? そっちでいいの?」


藤村 「そんな目で見られる極悪人の気持ちを考えてみろよ!」


吉川 「いや、極悪人の時点でそういう目で見られてもしょうがないだろ」


藤村 「ほら、それ! 真面目にやってる極悪人にとってはいい迷惑なんだよ」


吉川 「真面目にやってるってどういうこと? 真面目なら犯罪はしないだろ」


藤村 「ストイックに人を苦しめることだけを考えて日々生きてる人たちだよ」


吉川 「真面目に犯罪に勤しんでいるのは余計にたちが悪いだろ」


藤村 「そいつらの持つ生まれついての邪悪さを貧困なんかのせいにしていいのか?」


吉川 「どこに対して何を語ってるのかわからなくて難しくなってきた。俺がいけないのか、それは?」


藤村 「当たり前だろ? 看護師がエロだと思われるのと一緒だよ」


吉川 「また面倒くさい概念が出てきた。一緒なのか? たとえ一緒だとしても一旦それは離しておかないか?」


藤村 「確かに貧困によって犯罪を犯す人もいるし、不安や絶望でなりふり構わずいる人もいるよ。だけどしっかりと基盤を築いて犯罪と向き合ってる人たちにとってそんな人と一緒にされていいわけがないだろ」


吉川 「そうだよ。結論は多分同じ方向だと思うんだけど、なんでそっちルートから来る? 一緒にしちゃいけないとは俺も思うよ? そんな犯罪者と一緒にしちゃダメ」


藤村 「彼らは彼らで個人個人の異なる欲望と悪意を持ってるんだよ。それを社会から与えられた不安や貧困のせいにされちゃ極悪人の立つ瀬がないだろ」


吉川 「極悪人は立つ瀬いらなくない? 二度と立たなくていいよ。消え去って欲しい」


藤村 「正義に酔った風潮は今や社会問題とも言える。それとも戦わなきゃいけないんだよ」


吉川 「なんで極悪人を擁護してるの? そもそもダメじゃないの?」


藤村 「真っ当な極悪人でもか?」


吉川 「真っ当な極悪人ってのはいないんだよ。真っ当じゃないから極悪人なんだろ」


藤村 「生まれついての天賦の才を持つ極悪人もか?」


吉川 「も、っていうかその人はもうダメだよ。極悪人は全員ダメだよ。問答無用で」


藤村 「そうか。いちゃダメか。そう言う結論ならしょうがない」


吉川 「納得した? 大丈夫か?」


藤村 「うん。話を変えよう。その貧困とかのやつに」


吉川 「そうそう。だから政治家や官僚が……」


藤村 「話変わってないだろ!」


吉川 「いや、変わってるんだけど?」



暗転

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