コスプレ

藤村 「いらっしゃいませコスー」


吉川 「あの、ハロウィンの仮装みたいなのってあります?」


藤村 「あるコス!」


吉川 「すごい。語尾がコスなんだ。コスプレのコスですか?」


藤村 「ドラッグのスラングであるナルコスから取ってるコス」


吉川 「物騒だな! それやめた方がいいですよ」


藤村 「なかなかやめたくてもやめられないし、やめても少し経つとまた戻っちゃうんだよね」


吉川 「何のことを言及してるの? 語尾の話じゃなくて? 治安が悪いな!」


藤村 「ハロウィンの仮装コスプレをお探しですか? 今までコスプレの経験とかは?」


吉川 「ちゃんとしたのはないです。歓迎会みたいのでセーラー服は着ましたけど」


藤村 「なるほど。ハロウィンのコスプレってのは初心者には一番いいですから。多少雑でもノリで許される。入門にはうってつけです」


吉川 「そうなんですか」


藤村 「コスプレは極まってくるとすごいですからね。化繊の混合率で殴り合いの喧嘩が起きたり」


吉川 「そんな? 綿が5%多いじゃねえか! みたいな話?」


藤村 「まぁ、それは一部の方の話で、比較的穏やかな人も多いです。でもハロウィンみたいな大きなイベントだとスベったらきついですよー」


吉川 「あー、スベるってことあるのか」


藤村 「愛を持ってコスプレをしてるっていうならいいんですが、ノリでやってる人にとってはウケるかスベるかが一番重要ですから」


吉川 「正直、愛はないです。あんまりアニメとかも知らないし」


藤村 「ですよね。うちのお店に来る人はだいたいそんな感じです。愛なんてまやかしだと金で解決したがる方々ばっかり」


吉川 「言い方が悪いな。お店ってのはだいたいそうでしょ」


藤村 「でもせっかくだからウケて思い出になるようなコスプレが良いですよね?」


吉川 「はい、そういうのありますか?」


藤村 「ありますよ。あんまり周りとかぶらないやつの方がいいと思いますけど、これなんかどうでしょ?」


吉川 「どれ?」


藤村 「これです」


吉川 「それはパーマのかつらでは? それだけ」


藤村 「はい。ダビデです」


吉川 「身体は裸じゃねえか! 捕まるだろ。パーマだけで裸のやつ」


藤村 「でもダビデなんで大丈夫ですよ」


吉川 「その理屈は法に適用されないだろ! ダビデですからって納得してもらえる世界観じゃないんだよ」


藤村 「じゃあこっちならいいですかね?」


吉川 「かつら! 変わっただけ! ロン毛に!」


藤村 「ビーナスの誕生です」


吉川 「裸だろうが! なんで裸ばっかり押し付けてくるんだ」


藤村 「でもこの髪の毛で隠してるから大丈夫かと」


吉川 「んなわけないだろ! 裸なんだから」


藤村 「このでかい貝は90万円なんですけど、これに乗ってれば誰が見てもビーナスなんで大丈夫かと」


吉川 「中古車かよ! 誰が見てもビーナスってことは誰が見ても裸なんだよ! 捕まるよ!」


藤村 「ではとっておきの、この考える人のコスプレで」


吉川 「ちょっとは考えてから物言えよ! 裸だろ!」


藤村 「こっちの台座はちょっとお得で52万円です」


吉川 「中古バイクかよ! 台座じゃなくて服を売れって言ってるんだよ!」


藤村 「じゃあこっちの、履いてないお笑い芸人のコスプレは」


吉川 「履いてるんだよ! 履いてるけど履いてないってやつなんだよ! 履いてないやつのコスプレはもう履いてないだろ!」


藤村 「あんまりTV見ないんで知らなくて」


吉川 「間違った形で伝聞したもののコスプレをするなよ! 麒麟かよ!」


藤村 「じゃあ、もうとっておきです。これは自信作」


吉川 「どれです?」


藤村 「これです」


吉川 「……どれ? 何のコスプレですか?」


藤村 「王様のコスプレです!」


吉川 「王様の。え? どれ? そっちにかかってるやつ?」


藤村 「いえ、私が持ってる」


吉川 「持ってないですけど。なにも」


藤村 「これ、裸の王様のコスプレです」


吉川 「裸の王様の! バカには見えない服!」


藤村 「このコスプレは原作を忠実に再現してるためにバカには見えません」


吉川 「現代でその商法成立させる気!?」



暗転

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