ぺてんし

亞泉真泉(あいすみません)

アンガーマネジメント

藤村 「アンガーマネジメント講座にようこそ」


吉川 「よろしくお願いします。私はどうも怒りっぽくて」


藤村 「まず基本的な部分ですが、一般的に怒りのピークは6秒と言われております」


吉川 「6秒を超えると怒りは収まっていくんですね?」


藤村 「そうです。しかし私どもの講座を受講すれば一週間で10倍、約1分間ピークを持続できるようになります」


吉川 「え? 持続する方向性なの?」


藤村 「私の先生に至ってはもはや怒りのピークであることが当たり前の状態で過ごしてます」


吉川 「そんな。スーパーサイヤ人になる修業をする悟空さと悟飯ちゃんみたいな」


藤村 「精神的には極めてスーパーサイヤ人に近い状態ですから」


吉川 「精神的だけ近くても肉体的に遠すぎるんじゃ」


藤村 「きちんと講座を修了すれば一日くらいはいけます」


吉川 「あんまりいきたくないな。そんなに長いこと」


藤村 「ではまず怒ってみましょう」


吉川 「そう言われても。怒りたくなくて来たんですが」


藤村 「わかります。ですが怒りと付き合うには怒りと向き合わなければなりません。目をそらさずに自分自身の怒りを見つめる。そしてようやく怒りというものを理解していくのです」


吉川 「言ってることはもっともらしい」


藤村 「最近何か怒ったことはなにかありますか?」


吉川 「急に言われてもな。あー、昨日の夜。晩酌用にと買っておいた刺し身を妻が食べちゃって。それはちょっと怒りましたね」


藤村 「はぁ!? なにそれ? マジ許せねぇ! そういうの絶対許せねんだよ。信じられねえことするな!」


吉川 「ちょっ、あなたの怒りが強いな。共感でそこまで怒れる? こっちが引くくらいですよ」


藤村 「本当、そういうの許せないんだよ。ふざけんな。ぶっ殺してやる!」


吉川 「いや、ぶっ殺しちゃダメです。うちの妻だから」


藤村 「関係あるか? 刺し身勝手に食うやつが悪いんだろうが!」


吉川 「そりゃあなたには関係ないですけど、私には妻ですから。さすがに怒りのピークが長いな。もう6秒以上たってるのに。頼むからぶっ殺さないでくださいよ。なんかそこまで怒られるとこっちが怒る気がなくなる」


藤村 「怒りはなくなりましたか?」


吉川 「あ、はい。確かに。でもこういうことなんですか? アンガーマネジメントって」


藤村 「ぁん? 文句あんか?」


吉川 「沸点も低い。私も周りにこんな風に思われてるのかな。最低だな」


藤村 「他になにか怒ったことありませんか? ほんの些細なことでも。ムカつくことがあったら教えてください」


吉川 「なんかあなた自身が怒りたくて聞いてません?」


藤村 「そんなことないですよ。あくまでアンガーマネジメント講座ですから」


吉川 「あなたは最近なにに怒りました?」


藤村 「最近は怒りすぎちゃったせいかもう周りが何も言ってくれなくってきて。しょうがないから今はツイッターで回転寿司関連のことを検索してます」


吉川 「ほら、怒りたいだけじゃん」


藤村 「しかし今後怒りそうになったらまず私のことを思い出して下さい」


吉川 「なるほど。確かに。その姿を思い出せば冷静になれるかもしれないな」


藤村 「そして一刻も早く連絡をください」


吉川 「やっぱり怒りたいだけじゃん」


藤村 「生徒が誰も連絡してこないので最近は暇で暇で。油ばっかり売ってます」


吉川 「でしょうね。連絡したら大変なことになりそうだもん」


藤村 「お願いだからすぐ呼んでください。どんな小さな火種でも駆けつけますから!」


吉川 「火に油注ぐ気か」



暗転

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