吉川 「テント張る時は風で飛んでいかないようにベグを打つから」


藤村 「ペグ?」


吉川 「巨大な釘みたいなもの。これを地面に打ちつけて止めるんだよ」


藤村 「そんなことして山の神の怒りを買わない?」


吉川 「大丈夫だよ。そのくらいじゃ山の神も怒らないよ」


藤村 「え? 山の神についてご存知なの?」


吉川 「知らないけど」


藤村 「じゃあなんで怒らないってわかるの? 神なんて気まぐれなのに」


吉川 「怒られたことないから。今までペグ打って山の神に」


藤村 「それはなんの証拠にもならないだろ。仏の顔も二度までは怒らないわけだよ。二度大丈夫だから仏は怒らないって言ってるのと一緒。山の神のペグ打ちに対する閾値をギリギリ超えてないだけかもしれない」


吉川 「だってそんな話聞いたことないもの」


藤村 「ソースは噂話だけなの? それでよく断言できたな。山の神のこと何も知らないくせに」


吉川 「何も知らないっていうか、そもそもいるのかよ。山の神なんて」


藤村 「あー……」


吉川 「なんだよ」


藤村 「俺はちょっとその発言に関しては何も言いたくないな。お前一人の責任ってことで」


吉川 「いないだろ、山の神」


藤村 「あ~あ、言い切っちゃった」


吉川 「ほら、昔は自然のこととか天気のこととかよくわからなかったから、そういうものの力ってことにしてたけど。現代で山の神とか言われても逆に普段何をしてるんだよ」


藤村 「お前よくそんな不遜なことを言えるな。今も見守ってくれてるだろ、山の神が」


吉川 「そもそも言わせてもらうと、このキャンプ場は平地だから。山じゃないから。いるとしたら平地の神だろ?」


藤村 「じゃあ平地の神の怒りに触れないように気をつけろよ」


吉川 「それもいないんだよ。山の神同様にいないんだよ」


藤村 「言い切るなよ。怖いなぁ。俺は乗らないからな、その発言には」


吉川 「キャンプ場を管理してるのは管理人だよ。平地の神が見てくれるなら管理人いなくていいだろ」


藤村 「平地の神に予約をネットで申し込むの無礼だからしょうがなく管理人にしてるだけだろ」


吉川 「対応できないと思うけどな。ネットの予約は。神はアナログっぽいし」


藤村 「それは途中でインターネットの神みたいのが上手いこと仲介してくれるんじゃないの?」


吉川 「インターネットこそ神はいないだろ。神話の時代になかった概念なんだから」


藤村 「じゃあネ申はどうなるんだよ?」


吉川 「それは神から一番遠いやつだよ。本当にインターネットの神がいたらネ申とかいじっちゃダメだろ」


藤村 「いちいち断言するなよ。もっとこう神っていうのはふんわりとしておくものだろ」


吉川 「キャンプするのにいちいち神様の顔色うかがってたら何にもできないよ。キャンプってのは人間が自然と共生するものなんだから。神の入る余地なし」


藤村 「その発言、神が聞いたらどう思うかな?」


吉川 「どうも思わないだろ。たかが人間の言うことなんて」


藤村 「結構傷つくと思うけどな。我ハブにされてる也! みたいな」


吉川 「いじけ方が独特だな。いてもいいけど見守るくらいにしておいて欲しいよ。自分の都合でバチを与えたりとか神としてどうかと思うよ」


藤村 「お前神のプライドを突くの上手いな。そう言われたら神としても心の広いところ見せるしかない」


吉川 「こっちが直接危害を加えない限り神だってバチを与えてこないだろ。考え方は熊と一緒だ」


藤村 「熊は山の神の化身とも言われてるしな」


吉川 「ほら、だからこのハンマーでペグ打って」


藤村 「そんなことしたら神の怒りに触れるだろ」


吉川 「大丈夫だって。山の神も平地の神も。いちいち気にしないよ」


藤村 「ペグの神の怒りだよ」



暗転

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