キャンプ

藤村 「いやぁ、キャンプ初めてだけどこんな感じなんだ?」


吉川 「やっと涼しくなってきたからね。これからはキャンプの季節だよ」


藤村 「実はちょっと憧れてたんだよね。なんか流行ってるんでしょ?」


吉川 「新しく初める人も多いし、人口が増えたから色々なギアが発売されてキャンプ趣味の人間としてはありがたい限りだよ」


藤村 「そもそもインドア派だからさぁ、全然勝手がわからないんだよ」


吉川 「ちょっとずつ楽しいところからやっていくといいよ。今日はキャンプ飯だな。ちょっと風が強いけどなんとかなるでしょ」


藤村 「キャンプって思うと風も清々しく感じちゃうよな」


吉川 「それなんだよ。そういう自然に対して改めて感動できるのがキャンプのいいところ」


藤村 「まぁ、ちょっと思ってたより寒いけど」


吉川 「まず火だな。どうする? つけてみる? これファイアスターターっていうんだけど」


藤村 「あ、ここタバコいいんだっけ?」


吉川 「ああ、まぁ。周りの人の迷惑にならなければ」


藤村 「じゃ、頑張って火つけて。俺はタバコ吸って待ってるから」


吉川 「あ、うん。これね、コツがあるんだよねー」


藤村 「……大丈夫? 全然つかないけど」


吉川 「風が。風が強いからさ」


藤村 「でもそれが醍醐味だもんなぁ。この火をつけるのにも苦労するっていうね。ここで安易にライターなんて使っちゃ台無しだもんな」


吉川 「台無しってことはないけどね。ちょっとこっちにきて風よけになって」


藤村 「こう? なんかキャンプって感じがしてきたなぁ」


吉川 「エホッ、エホッ、煙が。タバコの」


藤村 「あぁ、ごめん。じゃどくわ」


吉川 「ダメかも。火貸してもらえる?」


藤村 「そんなことしてキャンプの醍醐味台無しにならない?」


吉川 「火は別にそれほど醍醐んでないから」


藤村 「そうなんだ。じゃあ気を取り直して早速キャンプ飯といきますか」


吉川 「だね。材料は予め切っておいたから」


藤村 「さっすっが! これをどうするの?」


吉川 「スープにする。簡単で他のことしてる間にできるから。うわっ!」


藤村 「あ、大丈夫? もう風が。なんかシートがブワってなってたけど」


吉川 「あ~あ、もうなんだよぉ」


藤村 「食材に土がついちゃったけど、これが醍醐味なんだよね? キャンプならではって感じがするよね」


吉川 「これは醍醐味じゃないよ。洗わなきゃダメだ」


藤村 「でも風があるなんてキャンプならではだな。都会だとほぼないからね」


吉川 「あるだろ。風は。そんなメチャクチャなフォローいらないよ」


藤村 「で、これスープ火にかけておけばいいの?」


吉川 「そう。味付けは最後にするから煮立って柔らかくなるまで」


藤村 「なんか表面にちっちゃい虫の死骸が浮いてるけど、これ醍醐味?」


吉川 「それは醍醐味じゃない。掬って」


藤村 「これも醍醐味じゃないのか。どれが醍醐味なの?」


吉川 「諸々だよ。全部醍醐味って言えば醍醐味」


藤村 「風で全部火が流れちゃうな。キャンプならではの風を止める何かないの?」


吉川 「キャンプは魔法じゃないんだよ。風はある!」


藤村 「なんかイライラしてない? 大丈夫?」


吉川 「してない。火ちゃんと見て!」


藤村 「見てるけど、見てる以外に何をしていいのかわからない」


吉川 「ちゃんと火が鍋底に当たるように調節してさ。……あぁっ!」


藤村 「あ。……まぁ、スープは全部こぼれちゃったけど、これもキャンプの醍醐味なんだよね。自然に還すって感じ?」


吉川 「あのさ、醍醐味とか要求しないで。そういうのって個人の感じ方だから」


藤村 「やっぱりイライラしてる?」


吉川 「イライラっていうかさ! 上手くいかないこともあるけど、いちいちそれをあげつらうなよ!」


藤村 「はい。すみませんでした」


吉川 「いや、俺も悪かったけど。ゴメンな」


藤村 「でもこういう都会のイライラした生活を離れて自然のもとでイライラすることこそキャンプの醍醐味だもんね」


吉川 「うるせぇ!」



暗転

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