藤村 「吉川さんのお父さんは、吉川さんが幼い頃に行方不明となっているんですよね?」


吉川 「はい」


藤村 「悲しかったですか?」


吉川 「まだ小さすぎてあんまり悲しいという記憶はないですね。ただ母が時折寂しそうにしてるのを見て育ったので」


藤村 「もしお父さんに会うことができるならば、なんと言いたいですか?」


吉川 「そうですね。色々と事情もあっただろうし、何を言いたいというよりも、元気でいてくれればと思いますけど」


藤村 「そうですか。恨み言などないですか?」


吉川 「十代の頃はそれなりに色々思いましたけどね。今はもうそういう気持ちはないです」


藤村 「それでは登場していただきましょう。こちらの方です!」


吉川 「ええっ!?」


藤村 「どうです?」


吉川 「え……。誰ですか?」


藤村 「お父さんです」


吉川 「いや、だって。なんというか、違うと思います」


藤村 「随分時間が経ってますから、見た目は変化してるかと思いますが」


吉川 「あの、だって。違うじゃないですか?」


藤村 「なんでですか?」


吉川 「あの、言っていいのかな。どう見ても違うじゃないですか」


藤村 「どう見ても? 私どもも苦労して探し当てたんですが」


吉川 「そうじゃなくてさ。苦労とかはあれだけど。え、わからないですか? これだって、言っていいの?」


藤村 「なにがですか?」


吉川 「あの、黒人の方じゃないですか」


藤村 「吉川さん、それはどういうことですか? 人種で人を差別すると、そういうことですか?」


吉川 「違います。全然違います。だから言いたくなかったんだよ。そういう意味じゃなくてさ。でも違うでしょ?」


藤村 「同じ人間ですよ?」


吉川 「それはそうだよ! そこに文句言ってないだろ。同じ人間だという認識は重々承知だよ」


藤村 「なのになぜ?」


吉川 「実の父という話なわけですよね? それで違う人種の方が来るのはおかしくないですか?」


藤村 「そういう言い方をされるとお父さんの方も悲しまれると思いますよ。ねぇ?」


父  「ンハンガボンゴル、ボンゴル」


吉川 「言葉も! 言葉も通じてない。違う人でしょ。逆にあなたたちは何をもってこの人を私の父だと思ったんですか?」


藤村 「DNA鑑定の方で」


吉川 「DNAで? 本当に鑑定できたの?」


藤村 「そりゃもう。DとAが合ってました」


吉川 「DとAってなんだよ!? DNA鑑定ってそういうもんじゃないだろ!」


藤村 「Nの方も80%超えてたからこれはもうお父さんかなって」


吉川 「その独自のDNA鑑定のシステムをまず見直せよ! 違うんだって!」


藤村 「お父さんだと思いますけど?」


吉川 「違うよ! そもそも顔も全然似てないだろ!」


藤村 「顔の似てない親子なんて山ほどいるんで」


吉川 「それにしても似てなさすぎだろ! 目の感じとか。もう色とかも全然違う」


藤村 「でもあれですね。瞳の奥に秘めた決意みたいのがそっくりです」


吉川 「外見じゃないだろ! メンタル要素じゃねえか! お前見えてるのか、秘めた決意が?」


藤村 「あと二人ともパーソナルカラーがイエベかなって」


吉川 「パーソナルカラーで親子を診断するやついないだろ! 世の中ほとんど血縁になっちゃう」


藤村 「あと顎が長いところがハプスブルク家の家系っぽくて」


吉川 「うるせーよ! そんなに長くないだろ! コンプレックスいじりやがって。ハプスブルク家じゃないし、この人も多分違うよ!」


藤村 「でもお母さんの方に確認したところ中肉中背で青い服を着てたっておっしゃってましたし」


吉川 「目撃者の証言じゃねえかよ! 実際に面通しをしろよ」


藤村 「あんまり会いたくないって言われちゃったんで、こればっかりは」


吉川 「そういうセンシティブな家庭の事情にこんな珍騒動を持ち込むなよ! 帰ってもらえよ」


藤村 「これを見てもそんな事が言えますか?」


吉川 「なんですかそれ?」


藤村 「覚えてませんか? あなたがお父さんにプレゼントしたものです。お父さんはこれを大切な思い出としてずっと肌身離さずにいたんですよ?」


吉川 「いや、全然記憶にないもの。なんですか、それ?」


藤村 「あなたが初めて採ったイボイノシシの牙です」


吉川 「エピソードの国がそもそも違うだろ!」



暗転

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