タトゥー

藤村 「お兄さん、いかがっすか? タトゥー」


吉川 「タトゥーって入れ墨のタトゥー?」


藤村 「はい。ササッと入れますよ。今ならサービスでドクロも描いちゃう」


吉川 「サービスって。え? タトゥーってそんな客引きするものなの?」


藤村 「わからないっす。でもまぁ、どうですか?」


吉川 「え、なんかそういうのいいの? 条例とか大丈夫?」


藤村 「それは大丈夫です。スニーカー履いてますから」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「足、自信があるんで。スニーカーなら負けないっす」


吉川 「逃げる前提なの? 潔いブラックさ」


藤村 「どうっすか? チクッと」


吉川 「チクッとしたくないよ。だいたいタトゥーってそんな気軽さで入れるもんじゃないでしょ」


藤村 「あ、大丈夫っす。うちのスタッフには重厚なのもいます。語尾がござるのやつ」


吉川 「そういう問題じゃないよ。なんだそのタイムスリップしてきた武士みたいな人。逆に怖いよ」


藤村 「おでこに大きく一って入れるのが得意で」


吉川 「罪人の入れ墨じゃん。江戸時代に帰れよ、そいつ」


藤村 「どすか? 下腹部に淫紋のタトゥー」


吉川 「なんだよ、淫紋て」


藤村 「子宮をイメージした柄でエロマンガとかでよくあるやつです。今大人気!」


吉川 「知らないよ! 子宮をイメージした柄を男がつけてたらおかしいだろ」


藤村 「でも黒にすればアリかなって」


吉川 「アリじゃないだろ。色の問題じゃないよ。男だから黒でキマリ! みたいな昭和の価値観。子宮がおかしいって言ってるんだよ」


藤村 「じゃあ、淫紋以外でちょうどいいやつ入れましょう。蚊に刺されたあととか」


吉川 「そんなタトゥー入れるやついるのかよ! 何のために入れるんだよ」


藤村 「蚊に刺されてても平気だっていうアピールとかかな」


吉川 「だいたい平気だろ。蚊に刺されたせいで元気なくなっちゃってるやつの方が珍しいよ。そもそもタトゥーはリスク大きいでしょ。温泉とか入れなくなるし」


藤村 「でしたら『温泉可』って入れておけば」


吉川 「入れておけば何だよ! 何の解決にもなってないよ。洗濯の表示じゃないんだよ。本人が可って言っても温泉側が不可なんだから」


藤村 「最近マンガの影響で入れる人が多いのが埋蔵金の場所を示した地図の入れ墨。これ入れたら塀の中じゃ人気者ですよ」


吉川 「ゴールデンカムイの! 塀の中で人気なの? そんな限定的な場所で人気をアピールされても微塵も揺るがない」


藤村 「でもほら、人間遅かれ早かれ入るわけじゃないですか」


吉川 「なんでいつか捕まる前提なんだよ。人類皆犯罪者みたいに言うなよ。一生縁のない人の方がはるかに多いだろ」


藤村 「オフ会でモテるかもしれない! そのゴールデンボールの」


吉川 「ゴールデンカムイ。タイトルすらちゃんと覚えてない薄い感じで勧めてくるなよ。タトゥーまでしっかり入れてくる強火のファンがオフ会に来たらみんな引くよ」


藤村 「じゃ、逆になんでタトゥー入れないんですか?」


吉川 「だから仕事とかさ、人間関係だって影響出るでしょ? それだけのリスクを背負ってまでやりたいと思わないんだよ」


藤村 「でもほら、バラバラ死体になった時とか、すぐに本人確認できますよ?」


吉川 「バラバラ死体になった時のこと見越して生きてないもの」


藤村 「お兄さんなんかバラバラ死体になりがちな顔してますし」


吉川 「どんな顔!? 顔つきでバラされたりするの?」


藤村 「ちょっとだけでもどうですかね? チクッと」


吉川 「ちょっとでもタトゥーはタトゥーだろ。一度入れちゃったらもう元には戻れないんだよ」


藤村 「だったら『初期状態』ってタトゥーで書けば、入ってても逆にキレイな身体だなって思われるんで問題ないっす」


吉川 「頓知を利かせるんじゃないよ!」



暗転

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