念じ

藤村 「では1から5までの数字で一つだけ選んでそれを強く念じてください」


吉川 「はい」


藤村 「強く、強く、念じてください」


吉川 「わかりました」


藤村 「全然ダメ。そんなの強く念じてるって言わない。わかりません? 念じ方」


吉川 「念じ方っていうか、強く思ってますけど」


藤村 「まず顔がダメ。普通強く念じてる時にそんな顔にはならないよね?」


吉川 「顔? 顔は関係ないんじゃ?」


藤村 「出るだろ、顔に。眉間にしわの一つも寄せないで念じてるなんて言えるのか?」


吉川 「でも顔だけやってもしょうがないじゃないですか」


藤村 「念じは顔からなんだよ! そんな普通の顔で何が念じられるの? お前は便秘でうんこが全然出ない時にそんな普通の顔でいられるのか?」


吉川 「便秘は全く関係ないんじゃ」


藤村 「一緒なんだよ! 強く念じる時と便秘の時の踏ん張りは! ほぼ同じ顔って決まってるんだよ」


吉川 「誰が決めたんですか?」


藤村 「国だよ!」


吉川 「国が? 国家が? 念じと便秘を?」


藤村 「スマートに韻を踏んでるんじゃないよ! もっと思いっきり念じた顔をしないとこっちに伝わらないから」


吉川 「こうですか?」


藤村 「もっとだな! もっといけるだろ? 思いっきり!」


吉川 「……こう?」


藤村 「どうだ、出そうか?」


吉川 「出そうって何? 出はしないでしょ。出そうとしてないから」


藤村 「あれ? どっちだっけ? 念じの方だっけ」


吉川 「念じの方ですよ。最初から。というか、便秘の方はこの状況でやらないでしょ」


藤村 「たまにごっちゃになっちゃうから」


吉川 「そんなごっちゃのなり方あります? じゃあ念じますよ? こう!」


藤村 「お、いいな」


吉川 「いってます?」


藤村 「来つつある! 来つつあるよー!」


吉川 「こう!」


藤村 「あー、来つつある! 来つつ戻りつしてるな」


吉川 「戻りつって何!? 戻りはしないでしょ」


藤村 「今直前まで来たけど一旦戻った。ほら、便秘の時もあるでしょ、そういうの」


吉川 「だから便秘で例えないでよ! 関係ないでしょ」


藤村 「ギリギリ。ここまで来てた。今一番近かったから」


吉川 「近いとか遠いとかの問題なんですか? 念じるのに」


藤村 「その調子であと一歩。もうちょいだから」


吉川 「頑張ります」


藤村 「出そう?」


吉川 「だから出はしないって! しつこいな」


藤村 「さぁ、こい!」


吉川 「ハッ!」


藤村 「おお、もうそこまで来てる。来てるよー」


吉川 「うぬぬぬぬ!」


藤村 「臭っ!」


吉川 「臭くはないだろ! 何が行ってるんだよ!?」


藤村 「あ、臭くはないか。幻臭だった。出したのかと思って」


吉川 「出はしないんだよ!」


藤村 「でも出そう顔になってたよ?」


吉川 「あなたが言ったんでしょうが! その顔をしろって」


藤村 「ちょっと今、出切った顔してない? 本当に出してない?」


吉川 「なんだよ、出切った顔って! この場で何かを出すはずないだろ!」


藤村 「こっちもそんなことされたら困るから。頼みますよ?」


吉川 「お前が言うなよ! ただ念じてるだけなんだよ!」


藤村 「念じは非常にいい感じです。念じオンリーでお願いします」


吉川 「最初から念じオンリーだよ! 踏ん張り要素はお前が勝手に組み込んだだけだろ。念じ以外やってないよ」


藤村 「ではどうぞ!」


吉川 「ふんぬぅううう!」


藤村 「あー! 来つつあります。来つつある! 来ました!」


吉川 「いった!? 伝わりました?」


藤村 「はい。来ました! 数字が!」


吉川 「何でした?」


藤村 「じゃあ、その答えを今からこっちが念じますね!」


吉川 「それは口で言えよ!」



暗転

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