時代

藤村 「どう考えても俺は生まれてくる時代が早すぎた気がするんだよ」


吉川 「そうかぁ? 意外と適応してるように思えるけど」


藤村 「まだこの時代はカーが飛ばないじゃん?」


吉川 「カー。車が? 飛ばないけど、未来も飛ぶかどうかわからないよ」


藤村 「飛ぶだろ。むしろ未来からしたら『え? カーって地べた走ってたんですか? カーの意味ないじゃないですか!』ってなってる」


吉川 「カーって言ってるの? 普段から? そんなゆらゆら帝国みたいな言い方で? 未来ではそう呼んでるってこと?」


藤村 「飛ばないカーの運転って面倒じゃない?」


吉川 「飛ぶカーを知らないもの」


藤村 「まだないからね。時代が追いついてないから」


吉川 「なんでお前は知った気になってるんだよ。お前の飛ぶカーも想像上だろ?」


藤村 「でも自動運転技術なんて今の時代でもそこそこ発展しつつあるんだから、飛ぶカーの時代は相当いいことになってるだろ」


吉川 「そりゃ飛ぶカーの時代にもなればな」


藤村 「俺どっちかというと、カーを運転するより自動運転のスイッチ押す方が得意だもん」


吉川 「どっちかというと、って言うほど均衡してるの!? 誰でもそっちが得意じゃない?」


藤村 「え? お前、自動運転のスイッチの押し方自信あるの?」


吉川 「いや、自信とかのレベル? そんなに難しいことじゃないでしょ。むしろなんでスイッチに難易度の差が出るんだよ」


藤村 「飛ぶカーなのに?」


吉川 「飛ぶカーがどうなのかは知らないよ! それはお前の想像でしかない難易度設定だから」


藤村 「お前よりは俺のほうが相当上手いと思うけどな」


吉川 「そもそも飛ぶカーの自動運転はスイッチなの? もっとこう、音声認識とかじゃないの?」


藤村 「お、お前……。まさかお前も生まれてくる時代が早すぎた者だったとは」


吉川 「俺は違うよ。現代で合ってるよ」


藤村 「その発想は早すぎてる」


吉川 「早すぎてないだろ。そのくらいは想像の範囲だよ」


藤村 「同じ生まれてくる時代が早すぎ民として聞くけど、未来の服ってどうなってると思う?」


吉川 「う~ん、汚れとかがつきにくくてあんまり洗濯しなくてもいいとか」


藤村 「汚れ!? その視点なかったー! 普通未来の服って言われたら形とか色とかにならない? 汚れ? お前本当に生まれてくる時代が早すぎてるな」


吉川 「早すぎてないよ。この時代で十分間に合ってる」


藤村 「その発想は早すぎるわ。だってこの時代は涼しくなるとか暖かくなるとか、せいぜいその程度だよ? 最先端のテクノロジーですら。それが汚れ?」


吉川 「いや、アパレルメーカーとか素材とか開発してるところはそのくらいすでに考えてるでしょ。別に特別奇抜な発想でもないよ」


藤村 「ううん? お前は早すぎるわ。さすがに。ちょっと生まれてくるのが早すぎた。まだ生まれてこないで欲しかった」


吉川 「生まれてこないで欲しかったってのは違くない? この時代に生きてるのに。それは褒め言葉じゃないだろ」


藤村 「早すぎるんだよ。俺も相当生まれてくるのが早い方だと思ってたんだけど、お前の方がもっと早かった。俺よりもだいぶあとの時代に生まれてくるのが筋だよ」


吉川 「筋ってなんだよ。ちょっと想像力があるくらいで」


藤村 「あとこれからタメ口やめてくれない? お前の方が生まれてくるのが早すぎたわけだから、設定上は年下なわけだよな」


吉川 「どんな理屈!? もう生まれてるんだよ! タメだからタメ口だよ!」


藤村 「本来ならお前の方が俺よりあとに生まれてるはずだから。タメではないよ。俺のほうが先輩にあたるから」


吉川 「だったら言わせてもらうけど、未来じゃそういう年上だからとか年下だからとか、そういうので格付けが決まるような観念は廃れてるから、きっと。だからお前の言ってることはおかしいの」


藤村 「お前に未来の何がわかるんだよっ!?」



暗転

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