剣の資格

長老 「ふぉっふぉっふぉ。この真の勇者にしか抜けない剣に今まで何人もの者たちが挑んでいったか。果たしてお主に抜けるかどうか?」


吉川 「クッ……! ダメだ! 俺は真の勇者ではなかった!」


長老 「まぁ、そう気を落とすでない。ワシの爺さんの代から未だに誰も抜けぬのだ。もはや誰も期待などしておらんわ。さて、こっちについて来い」


吉川 「情けをかけるつもりか?」


長老 「そうではない。お主にもう一度チャンスを与えようというのだ。ほれ、その剣。それは三流戦士以上にしか抜けぬ剣だ」


吉川 「三流戦士以上」


長老 「お主が三流戦士以上の実力があれば抜ける」


吉川 「あぁ! 抜けた!」


長老 「お見事! お主なら抜けると思っていた」


吉川 「あの、でも三流でしょ?」


長老 「なんの。この剣とて五人に一人は抜けずに諦めていくのだ。お主のその実力なら今後の冒険も自信を持つがいい」


吉川 「まさか、俺の誇りに傷をつけないために?」


長老 「さてお次は働き者の農夫にしか持てないクワ。これが抜けるかな?」


吉川 「あ、違うんだ。次々来るシステムなの?」


長老 「これは意外と抜けそうで抜けない」


吉川 「いや、別に俺は農夫になるつもりは……」


長老 「それもいいだろう。所詮勇者の器ではない者はオメオメと引き下がるしかないな」


吉川 「わかったよ。あ、抜けた」


長老 「おぉ! 働き者の農夫になる実力十分!」


吉川 「別になりたくないんだけど」


長老 「さて続いては……」


吉川 「もう大丈夫です。自分の力を思い知ったので」


長老 「フッ、その程度で知ったなど笑止千万。以前ここに来た男もそう言っていた。かつて戦士だったがこの村で己の適性を知りのちに大魔道士とまで呼ばれるほどになった男じゃ」


吉川 「そんなことが」


長老 「さて次はこの本」


吉川 「まさかその大魔道士の!?」


長老 「この本がスラスラ読めれば薬草検定四級は確実と言われてる」


吉川 「参考書じゃない、それ? 話が変わってきたな」


長老 「果たしてお主に読めるかどうか」


吉川 「いや、わからないことはないけど、スラスラではないな」


長老 「そうか。どうする? 持って帰って勉強して再チャレンジするか?」


吉川 「やっぱり参考書だ。なんなの、この村?」


長老 「さて続いては、お待ちかねのメインイベント!」


吉川 「メインイベントは真の勇者の剣なんだよ」


長老 「この箱から一枚紙を引いてアタリが出れば今夜は飲み放題! 果たしてお主に引けるかどうか」


吉川 「完全に趣旨が変わってきてる」


長老 「ハズレでも5%から最大25%オフの割引券となっております」


吉川 「商売っ気が出てきたな」


長老 「なおチケットは本日限りとなっております。それでは張り切ってどうぞ!」


吉川 「あ。5%の割引券だ」


長老 「惜しかったですね! でもお得はお得ですから」


吉川 「どの道、食事はするけど、流れになってるのがちょっと嫌だな」


長老 「他になにか試しておきます? 遊び人とか適正がわかるやつありますけど?」


吉川 「もう完全にそういうアミューズメントに振り切った村なんだ? 勇者の剣にあやかって」


長老 「あと背筋力が80kg以上ないと持ち上がらない岩もありますよ?」


吉川 「その岩は別にここに限らなくても重ささえあればどこで計れるだろ」


長老 「ちなみにお食事ですが、思い切って贅沢をしようと覚悟した者以外には食べられない絶品メニューがございますが、果たしてお主に食べられるかどうか」


吉川 「セールスが。言葉巧みなセールスの圧が強くて、もう勇者の剣とか信憑性が薄れてきたな」


長老 「ではお食事はこちらに、おっとその前に」


吉川 「まだ何かあるのか?」


長老 「体温が高すぎるものは入店できない安全対策の徹底したお店ですので計っていただきます。果たしてお主に入れるかどうか」



暗転

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