審査

藤村 「……なぁんてな! 傑作だろ?」


吉川 「本当に藤村部長のお話はおかしくて、もう勘弁してくださいよ~」


藤村 「ちなみに何点?」


吉川 「は? と言いますと?」


藤村 「今の話。何点?」


吉川 「え? 点ですか?」


藤村 「うん。100点満点で何点?」


吉川 「あんまりそういう評価できるような立場じゃないんですが」


藤村 「いいからいいから。ざっくりとで言ってくれれば。結局こういうのはとどのつまり好みになっちゃうし」


吉川 「私はあんまりそういうお笑いみたいなものにも詳しくないんですが」


藤村 「逆にいいね! そういう人にこそ審査して欲しい」


吉川 「審査なんですか。雑談のノリかと思ってたのに」


藤村 「ちなみに今日はネタを6本用意してるから」


吉川 「6本。ちゃんとネタになってるんだ」


藤村 「さぁ、何点かなぁ」


吉川 「あ、ええと。89点で」


藤村 「まぁまぁまぁ。最初だからあんまり高得点はね、無理だと思う。様子見でつけるもんな。初っ端から89点は上々の滑り出しだよ」


吉川 「そんなM‐1審査員みたいなちゃんとしたノリで採点するんですか?」


藤村 「こっちも真剣に話してるわけだから、いい加減な審査だったらそりゃ成立しないだろ」


吉川 「あの、やっぱり私には荷が重すぎるかと」


藤村 「私のネタなんて真面目に審査したくないってこと?」


吉川 「滅相もない。全然そういうことじゃないです。ただ私は本当に疎くて、正直私の100点が世間の皆さんの納得する100点かと言われると甚だ疑問が残ります」


藤村 「どんなの?」


吉川 「え? なにがですか?」


藤村 「キミの100点は。後学までに聞かせておくれよ」


吉川 「急に言われても、それに私が話した時点でもう面白さは目減りして60点くらいになってると思います」


藤村 「そっか。じゃあそれを40点くらい上乗せして見ろってことね、ではどうぞ」


吉川 「いや、無理です。何も言えないです」


藤村 「いいかね? 何も言わなかったら不戦敗なんだよ? キミが今まで費やしてきた汗や涙を考えてみたまえ。少なくとも舞台に立つチャンスがあるなら無にしちゃいけない」


吉川 「舞台。ここを舞台と思って生きてなかったので」


藤村 「そうか。キミには期待してたんだがな」


吉川 「仕事の評価じゃないですよね?」


藤村 「一事が万事だよ。もし上流から無茶な要求をされた時、キミは何もせずに尻尾を巻いて逃げるのかね?」


吉川 「いつの間にか仕事の評価にすり替わってる。あの、私は自分にそんな大層な能力があるとは思っていません。ただ藤村部長のお話は本当に面白いと思っておりまして。できることなら審査なんていう余計なことを考えずに純粋に藤村部長の話芸を楽しみたいと考えてるのですが叶いませんでしょうか?」


藤村 「そ、そう? まぁ確かに。無理にやらせるってのはよくないな。これはもうパワハラになってしまう。わかった。この件に関しては私が間違ってた」


吉川 「ありがとうございます。では私は仕事の方に戻らさせていただきます。また面白い話を聞かせてください」


藤村 「またと言わず今すぐにでもいけるぞ?」


吉川 「いえいえ! そんな贅沢はできません。一日一本でも十分ありがたいので先程の話をじっくりと思い返したいと思います」


藤村 「まぁ、待ちたまえ。その89点がベストだと思われると私としても納得がいかないのでね。もう一本、さらに自信のあるやつ。これを聞いてきなさい。もう仕事はその後でいいから」


吉川 「はぁ、そうですか。そこまで言われるのなら」


藤村 「ちなみに、好みが分かれる動き重視のネタと正統派しゃべくり系、それとちょっと引くくらいのド下ネタがあるがどれがいいかね?」


吉川 「ちょっと引くくらいのド下ネタをこの一対一の状況で?」



暗転

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