サプライズ

藤村 「サプラーイズ! ハッピーバースデー、吉川!」


吉川 「えぇ!? まじで? なんだよ、全然気づかなかった!」


藤村 「……で、相談なんだけど。ちょっと手違いがあって」


吉川 「なに? 俺のせい?」


藤村 「違う違う。お前の驚きっぷりは最高だった。サプライズ大成功。……なんだけど、ちょっとこっちのミスで、ケーキと花束がないんだよね」


吉川 「ああ、うん」


藤村 「本当は事前に買っておいて、ここで渡す予定だったんだけど」


吉川 「なんだよ、全然いいよ。そんなの!」


藤村 「なので、ある体でサプライズを受けてくれる?」


吉川 「ん? ん? どういうこと?」


藤村 「だから、本来はケーキと花束があるのよ。今はないけど」


吉川 「うん」


藤村 「なんで、ケーキが美味しい感じとか出して欲しい」


吉川 「誕生日を祝ってくれてるんだよね? それは嬉しいよ。その嬉しさは伝わってる?」


藤村 「伝わってる!」


吉川 「じゃあ、それでよくない?」


藤村 「ケーキの美味しさがないと……」


吉川 「だってケーキないじゃん」


藤村 「ま、ケーキはないんだけど、それは手違いだから。本来はあるから」


吉川 「いや、本来もなにもないじゃん」


藤村 「もちろんこっちのミスではあるんだけど。このサプライズの全体像としてね、ケーキや花束があるってのを考えてたから」


吉川 「でもないんだからそこはいいんじゃない?」


藤村 「なに? 俺たちの用意したケーキが美味しくないってこと?」


吉川 「いや、用意してないでしょ」


藤村 「手違いはあったけど、用意する気持ちはあったんだよ。俺たちの気持ちはどこに持ってけばいいわけ?」


吉川 「なに? 怒ってる? どういう筋道だかよくわからないんだけど」


藤村 「怒ってるのお前だろ! 誰にだってミスはあるだろ? それをそこまでチクチクとさぁ!」


吉川 「違うでしょ。俺はミスは責めてないよ?」


藤村 「だったらケーキ美味しそうに食べてる感じを出してよ!」


吉川 「それとこれとはまた別の問題じゃない?」


藤村 「同じ問題だろ! このサプライズは誕生日を祝ってケーキのろうそくを吹き消して美味しく食べるものなんだよ! 嬉しいならそれをやってくれよ」


吉川 「でもないから」


藤村 「わかんねーやつだな! ないけど、あったことにしてやる分にはいいだろ? どうしても俺たちの祝いを受け取りたくないってこと?」


吉川 「祝いは受け取ってる。気持ちは受け取ってるから。感謝してる」


藤村 「じゃ、フーってやって。ろうそくのフーって」


吉川 「ないんだけど」


藤村 「ないのはわかってるし、それは謝ってるだろ! なんで毎回ほじくり返すんだよ! 先に進まないだろうが」


吉川 「なきゃないでそこはなしでいいじゃん」


藤村 「俺たちの祝う気持ちはなしってこと? 無ってことか?」


吉川 「違う違う。そこは有! 受け取った。だからそれでいいじゃん」


藤村 「それじゃ俺たちの気がすまないんだよ! ケーキと花束があるんだから」


吉川 「ないんだよね?」


藤村 「しつけーな! そんなに物がいいか? この強欲な物質主義! こういうのは物よりもまず気持ちだろ!」


吉川 「だからこっちも気持ちは受け取ったから。それで終わりにしようよ」


藤村 「ケーキと花束の分があるんだよ!」


吉川 「分はないだろ! 分は分があったらやるよ」


藤村 「そこをお前の側が気持ちで返せばいいんじゃないのか、っつてんだよ! そのくらいタダだろ?」


吉川 「金の問題じゃないだろ! やる意味が感じられないんだよ」


藤村 「そんなこと言ったら俺たちだって祝う意味なんて感じてなかったよ。知っちゃったから無視できないでやってるだけで」


吉川 「はぁ? だったら気持ちも最初からねえんじゃねえか! どうせケーキとか花束とかも言ってるだけでハナから用意してなかったんだろ?」


藤村 「あったっつってんだろ! マジで最低の野郎だな。お前みたいなやつもう絶対祝わない!」


吉川 「結構だよ! 誰も頼んでねえよ!」



笹咲 「ハァ……ハァ……。遅くなりました! ケーキと花束持ってきました!」



藤村 「……」


吉川 「……」


藤村 「……ぉめでと」


吉川 「……ぉう」



暗転

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