取り返し

藤村 「まったくもって、取り返しがつくかつかないかギリギリなことをしてしまい申し訳ありませんでした」


吉川 「なんだよ、その言い方! 取り返しはつかないんだよ!」


藤村 「でもほら、金でなんとかなりますから」


吉川 「金で。そりゃ、なんとかしようとすればなんとかなるけど、金の分はなんともなってないだろ!」


藤村 「金で取り返しつくって言うなら、取り返しつかないことではないから。つまり取り返しはつく程度の事態ということになります。大丈夫です」


吉川 「大丈夫なわけないだろ!」


藤村 「残念だが、あなたは本当の取り返しがつかないことを知らないようですね?」


吉川 「なんだよ、その山岡士郎みたいな切り口」


藤村 「わかりました。あなたに本当に取り返しのつかないことを見せてあげましょう」


吉川 「寄せただろ! 山岡士郎って言葉にあやかっちゃった感が出まくってる。別に山岡士郎さを求めてないんだよ! 本当の取り返しのつかないことってどういうことなんだよ!?」


藤村 「もうメチャンコになります」


吉川 「メチャンコに!? なんでメチャンコにするの!?」


藤村 「そこまで強情なら、本当の取り返しのつかないことをお見せするしかないですから」


吉川 「そもそも見たくないんだよ! 現時点で相当取り返しがつかなくなってるんだから」


藤村 「いいえ、こんなのは取り返しがつかない事態の中では下の下。言ってみれば山岡さんのカスの鮎みたいなものです」


吉川 「山岡さんのカスの鮎だって相当いい鮎だろうが! 京極さんだって最初は喜んでたんだよ! 現状の取り返しがつかない事態も私の人生においてはかつてないほどの取り返しがつかなさなんだよ」


藤村 「可哀想に。本物を知らないから、この程度の取り返しがつかない事態で満足してるなんて」


吉川 「満足はしてないんだよ! 不満しかないよ! より大きな不満をぶつけられても相殺しないだろ」


藤村 「本物を知ったら、この程度の取り返しのつかなさはどうでもよくなりますよ?」


吉川 「どうでもよくなりたい人なんていないだろ! みんなそれなりにギリギリのところで踏ん張ってるんだよ! どうでもよくならないように」


藤村 「良いのですか? 高みを知らずして」


吉川 「高くはないだろ! どっちかと言うと低い方だよ。低みだよ!」


藤村 「一流は一流を知る。この程度の取り返しのつかなさしか知らなければ、いずれあの時は大変だった自慢のマウント合戦で惨めな思いをしますよ?」


吉川 「しょうもない! なんだよ、そのマウント合戦。そこに参加して勝つために取り返しのつかないことになりたくないんだよ!」


藤村 「いいんですか? 究極と至高の勝負を繰り広げてるところにコンビニ弁当持って参戦するようなものですよ?」


吉川 「そもそもが参戦したくないんだよ! そんな不毛な争い! それに最近のコンビニ弁当は結構やるよ。私にとっては十分だよ」


藤村 「でも私、この間コンビニ弁当食べたら口内炎できちゃって」


吉川 「知らないよ! お前の口内炎の話は今ここで割り込めるトピックじゃないだろ!」


藤村 「それです!」


吉川 「え、なに?」


藤村 「だから究極と至高の対決に今のあなたが行ったら、そのくらいの対応をされるということです。自分にとってはかけがえのない大切な取り返しのなさを、あいつらは『お前の口内炎の話』程度のものと賎しめるんですよ? 我慢なりますか?」


吉川 「確かにそれはなんか悲しいな。キミの痛みを軽視したのは悪かった。しかし現時点で取り返しが……」


藤村 「そこです! そこで全てが丸く収まる最高の一手があるのです!」


吉川 「え!?」


藤村 「今日の競艇は絶対に来るんですよ! 一発デカく張りましょうぜ!」


吉川 「取り返そうとするなよ!」



暗転

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