スマホ依存

藤村 「なんかスマホが壊れちゃって。新しいのを買わないといけないんだけど」


吉川 「大変だな。もう今の時代はスマホなしじゃ生活するのも大変だろ」


藤村 「そうなんだよ。一昨日から調子悪くてついに電源が入らなくなって。おかげで一睡もしてないよ」


吉川 「色々調べたりしてたの?」


藤村 「いや、スマホが壊れてるからさ」


吉川 「うん、壊れてるから? 俺だったら諦めて寝ちゃうけど」


藤村 「寝れるわけないだろ。ポケモンスリープもできないんだぞ?」


吉川 「まぁ、それはしょうがなくない?」


藤村 「寝損だろうが! せっかく寝るのに記録しないなんて!」


吉川 「寝損てことある? 睡眠は別に損する要素はないだろ」


藤村 「あるんだよ! スリープで付加価値がついてから! その分だけやらなかったら損だろ」


吉川 「そんなタイトに考えなくてもよくない? 一日くらい」


藤村 「いいや! 今まですべてスマホで記録してきたんだから。スマホで記録できないなんてやる意味がないだろ」


吉川 「あるよ。やる意味はある。元々してたことだろ?」


藤村 「新しいスマホを買いに行きたいけど、歩いた記録ができないから家から一歩も出られない!」


吉川 「極端! じゃあネットで注文しろよ。すぐだろ」


藤村 「スマホのアプリでポイントが付かないと損だから」


吉川 「微々たるもんだろ! 一日の損失とか考えたらそっちの方が損だよ」


藤村 「一日の損失なんて知ったこっちゃないよ! 眼の前の損が嫌なんだ。俺の手をお得の野郎がすり抜けていく。この屈辱に耐えられない!」


吉川 「お得の野郎。そんな血眼になって損から逃げてるその精神の疲弊こそ損だと思うけどな」


藤村 「じゃあ、今から一緒に買いに行こう。お前のスマホで俺の全行動を記録しておいてくれ」


吉川 「嫌だよ、面倒くさい。そもそもそれをどうするんだよ、俺のスマホにデータがあってもしょうがないだろ」


藤村 「そのままずっと俺の行動を記録し続けてくれれば何の問題もない」


吉川 「問題しかない。俺の人権をまず度外視してる」


藤村 「そんなこと言われても。俺の生活とお前の生活どっちを取るかってなったら俺を取るしかないじゃん」


吉川 「お前にとってはそうだろうけど、俺にとっては俺なんだよ」


藤村 「逆になんでお前はそんなに無頓着でいられるんだ? 記録をしなければお前が生きた証も残らないんだぞ?」


吉川 「そんな証が残らなくても生きてるし」


藤村 「そんなのは生きてるって言わない! もはやゾンビと一緒だよ。ゾンビもこまめに記録しないからほぼ一緒!」


吉川 「ちょっと前までは誰も記録してなかっただろ」


藤村 「そんなこと言ったら、ちょっと前まで路上にゴミを捨てたり立ちションしたりしてたんだよ! 時代とともに変わったんだ。ついて来ないやつがおかしい」


吉川 「そんな現代人の嗜みになってるか? みんながみんなお前みたいに依存してたら大変だぞ」


藤村 「いいか? お前がもしここで突然死しても記録してなかったら誰も気づかないんだぞ?」


吉川 「お前が気づくだろ。なんとかしろよ、お前が!」


藤村 「は? 俺にそんなことできるわけないだろ!? 俺はただ自分の無力さを噛み締めて佇むしかないんだ」


吉川 「なんでだよ! 早く連絡しろよ、警察なり救急車なり!」


藤村 「だってスマホ壊れてるんだもん……」



暗転

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