北風と太陽

藤村 「北風と太陽って相当コンプラ的に危うい話だと思うんだよ」


吉川 「えーと、あれか? 旅人の服を脱がす競争をする話だっけ?」


藤村 「そう。まず若い女の服を脱がそうって話自体が企画モノのAVじゃない?」


吉川 「ん? 若い女じゃないだろ。確か男の人じゃなかった? 青年の」


藤村 「だって旅人だぜ?」


吉川 「旅人だから? おじさんの旅人もいるし、おばさんの旅人もいるだろ」


藤村 「お前You Tubeとか見たことないのかよ? キャンピングカーで旅してるのなんて全部若い女だぞ? 男のやつ見たことないもん」


吉川 「いるだろ、男の人! むしろ男の人が多いと思うぞ?」


藤村 「そんなのオススメに出てきたことないけど」


吉川 「それはお前の偏り! お前がそういうのしか見てないから、そういう人なんだろうなって判断されて若い女の人のしかオススメに出てこないんだよ!」


藤村 「百歩譲って男の人の旅ユーチューバーがいたとして、温泉のシーンとか気持ち悪いだけだろ」


吉川 「別にすべての旅ユーチューバーが温泉に入ってるわけじゃないんだよ! お前が見るやつは全てそういうのかもしれないけど。というか、もうそれ旅が目的じゃないだろ」


藤村 「旅情以外の何も目に入らないけど」


吉川 「嘘つけよ! 不自然な温泉カットは旅情になくてもいいだろ」


藤村 「あれこそが旅情だから」


吉川 「明らかなサービスシーンだろ。旅情で満足する人間には不必要なんだよ! エロ目的のおじさんだけが楽しみにしてるんだから」


藤村 「だったら北風と太陽だってエロおじさんだろ!」


吉川 「すごいとばっちりだな! あの話からエロ要素を嗅ぎ取れるその妄想力は人類史上最も無駄なものじゃない?」


藤村 「ニッシッシッシ。あの旅人を脱がす競争しようぜ? って北風が言ってる時点で不純すぎるだろ」


吉川 「そんなキャラじゃないよ、北風は。笑い方がむっつりスケベすぎる。脚色が濃すぎて元の絵が見えない」


藤村 「オホッ。良いですねぇ。脱ぎ脱ぎしてもらっちゃいましょうか。って太陽も同意するだろ?」


吉川 「気持ち悪ッ! 未だかつて太陽の擬人化でそんな気持ち悪いやついた? なんだよ、脱ぎ脱ぎって。おじさんじゃん」


藤村 「だからコンプラ的に問題があるって言ってるんだよ」


吉川 「その北風と太陽が競うなら大問題だよ。もうろくな結末になりそうもない」


藤村 「まったくだよ。北風がいくら役人風を吹かせても旅人は反発するだけだから」


吉川 「役人風を吹かせたの!? 嫌な北風だな。条例に従って脱ぎたまえとか命令してきたんだ。そういう風?」


藤村 「その点、太陽は『今バラエティ番組の収録をしてまして。深夜のお色気番組なんですが謝礼も出るんですよ』とか言葉巧みに誘って」


吉川 「太陽要素全然ないな! 明るさも熱も、なにもない。謝礼で呼び寄せてる。もう太陽やめちまえよ!」


藤村 「いや、だってどんなに太陽が照りつけたところでマジックミラーで全部跳ね返っちゃうから」


吉川 「なんで急にマジックミラーがでてくるの! ないだろ、マジックミラーの施設はそんな手近に」


藤村 「たまたまそういう号が」


吉川 「そんな号がある時点でやましい疑いはMAXだろうが。旅人も迂闊についていくなよ」


藤村 「ほら、見た目はキャンピングカーみたいだから習性で引き寄せられるわけで説得力はあるよ」


吉川 「納得したの!? 世界一有能な検事でもそこからは立証できないよ? ひょっとして、お前の見てる旅ユーチューバーの動画、バカしか見てないの?」


藤村 「そんなことない。みんな知性と理性を持って見てるから。でもここからが北風と太陽の盛り上がるところなわけでさ」


吉川 「ここから!? 号に乗ったあとで? なにをするの? もう脱がす競争とか言ってる場合じゃないだろ。太陽はマジックミラーで介入できないし」


藤村 「北風がビュービュー風を吹かせると旅人の身体を隠していた泡がどんどん飛んでいっちゃうわけじゃない?」


吉川 「泡が! もう脱いでるだろ、それは! 次の企画だろ! 脱ぐ先の段階にいってる!」


藤村 「でも見たいだろ?」


吉川 「見たい!」



暗転

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