事後モノマネ

藤村 「モノマネのジャンルを開拓したんだけど」


吉川 「ジャンル? モノマネの人じゃなくて? ジャンルってどういうこと?」


藤村 「事後モノマネ」


吉川 「ジャンル名を発表されても全くピンとこない」


藤村 「つまりその、今までのモノマネってのは日常のシチュエーションにおけるモノマネでしかなかったわけじゃない?」


吉川 「ん? そんなことなくない? 歌を歌ってるところとかライブ中だろ?」


藤村 「だからアーティストにとってはライブも日常じゃん」


吉川 「そういうことか。それが非日常っていうの?」


藤村 「事後」


吉川 「事後ってのがわからないんだよ。事後はいっぱいあるだろ。なんだったらちょっとセクシーな意味合いですらある」


藤村 「そういうのじゃない。R指定なしの健全なモノマネだから」


吉川 「説明されても全然近づいてる感じがしないんだよ。なんかやってみて」


藤村 「じゃあ、老人の暴走する自動車に轢かれた織田信長。……ホト……トギス」


吉川 「何でもいいだろ! それはもう誰でもいいよ!」


藤村 「いや、織田信長が轢かれたらこうなるから」


吉川 「なるか? あと、ホトトギスは別に信長のシグネチャーじゃないだろ! みんな言ってるんだよ、ホトトギスの部分は。殺してしまえが信長のムーブなんだから」


藤村 「でも言うからなぁ」


吉川 「お前の想像上の信長だろ? じゃあ、老人の暴走する自動車に轢かれた豊臣秀吉は?」


藤村 「秀吉はちょっと難しいな」


吉川 「一緒でいいだろ! そこを厳密にわけてるのお前の脳内だけなんだよ。聞いた人にとっては一緒! 徳川家康は?」


藤村 「徳川家康は老人の暴走する自動車に轢かれないだろ?」


吉川 「その棲み分けなんだよ!? 信長も轢かれないだろ。信長が轢かれるんなら家康だって轢かれる可能性はあるだろ!」


藤村 「家康は慎重だから」


吉川 「お前がモノマネをする分にはそこは自由じゃん! 轢かれる家康がいてもいいだろ?」


藤村 「老人の暴走する自動車に轢かれる時点で似てないじゃん」


吉川 「そこがポイントなの!? そこにこそ似てる似てないの焦点があったんだ? 信長の今際の言葉じゃなくて、信長って老人の暴走する自動車に轢かれがちだよねっていうあるある感があったわけ?」


藤村 「まぁ、あくまで想像だけどね。あの時代に自動車ないから」


吉川 「わかってるよ! 最初からあくまで想像だと思って聞いてたよ! むしろ写実性があるとは微塵も思えなかった」


藤村 「続きまして、迫りくる溶岩から逃げられず飲み込まれたピカチュー。……ヂュッ」


吉川 「一瞬で! あのピカチューが一瞬で! 可哀想なことするなよ! 他のシチュエーションにしてやれよ」


藤村 「他って別にピカチューはならなくない?」


吉川 「溶岩にも飲み込まれないだろ! なんでそこは可能性を見出してるんだよ!」


藤村 「多分、ヒトカゲが一枚噛んでるんじゃないかと」


吉川 「不穏なこと言うなよ! そんな陰湿な関係性じゃないだろ。もっと見ていて楽しい感じのはないの?」


藤村 「じゃあ他のも。呪詛返しにあって必死に抵抗するも力尽きるAdoさん。……ヴェ~」


吉川 「呪詛返しに! ということは、最初に呪いかけたのはAdoさんの方! なんでそんなことするんだ」


藤村 「それはAdoさんに聞いてみないと」


吉川 「聞いてもわからないんだよ! お前が言ってるだけだから。Adoさんも『なんで呪いをかけたんですか?』って問われてどう答えればいいんだよ?」


藤村 「だとしたらもうわからないです」


吉川 「お前はわかっておけよ! お前の頭の中の出来事なんだから。そこ以外にないんだから。あともう肝心のモノマネの部分が低カロリーすぎる!」


藤村 「呪詛返しにあって、歌ったり喋ったりできないでしょ?」


吉川 「だったらシチュエーションを見直せよ! モノマネとして成立するくらいのやつを!」


藤村 「じゃあ、調子に乗って紐切り鎬昂昇をバカにした人のマネ」


吉川 「刃牙の! 視神経を切断するやつ!?」



暗転

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