チュートリアル

藤村 「フン、冒険者か。まるで素人だな、まずは名を名乗れ」


吉川 「吉川です」


藤村 「ハッハッハ。予言に記された勇者と同じ名前とは、いるんだよなそういうのを恥ずかしげもなく名乗るやつが」


吉川 「おぉ、ちょっとワクワクする導入だな」


藤村 「しかたない。こんなやつをほっぽりだすわけにもいかないし、冒険者としての基礎を教えてやるとするか」


吉川 「いわゆるチュートリアルか」


藤村 「まず武器の種類から説明しよう。まずは棒」


吉川 「棒。棍棒とかかな?」


藤村 「棒はよくその辺に落ちてるいいやつを使え。こうして殴る」


吉川 「本当に棒だ。まぁ、色々とスキルがあるのかな」


藤村 「そして石。これはちょうどいいのが落ちてればいいが、硬さや重さなどに偏りがあるので注意しろ。これを投げる。重すぎると飛ばないから注意しろよ!」


吉川 「石を投げる。拾って? その辺のを?」


藤村 「そして拳。これは棒も石もない時に有効だ。こうして殴る」


吉川 「原始人の三択! 剣とか弓とかは!?」


藤村 「けん……?」


吉川 「概念がないのか。もっと剣や魔法の世界を想像してたんだけど」


藤村 「魔法だって? あんなもん、何の役に立つんだ。バカバカしい」


吉川 「あるんだ! 魔法。概念が。逆に魔法が発展しすぎて武器が遅れてるのかな」


藤村 「魔法なんて合コンで披露しても引かれるだけのものだろ?」


吉川 「合コンの概念はあるのかよ。というか、合コンでイキって滑る人という概念すらある。なのに武器はない。平和な世界なのか。その魔法ってのはどこで習えるんですか?」


藤村 「教えてやろうか? 見てろ。この親指が……。離れた! と思ったらくっついた! なんと無傷です。ジャーン!」


吉川 「ジャーンじゃないよ。そら合コンで引かれるわ。引いた娘たちに何の落ち度もない。魔法ってそれ?」


藤村 「これは上級だから。初心者はもっとベロベロバーみたいなのから初めるがいい」


吉川 「ベロベロバーも薄っすら魔法扱いなの? 浅い。世界のすべてが浅い」


藤村 「いかん! 魔族がやってきたようだ。ううむ、人手が足りない。悪いがお前にも手を貸してもらう。なぁに、ちゃんとサポートするさ」


吉川 「おぉ、盛り上がる展開。模擬戦が始まるのかな?」


藤村 「まずそこの石を拾え」


吉川 「やっぱり石なんだ。大丈夫か、この世界」


藤村 「おい! お前ちょっと待て。よくその石を見せてみろ! ま、まさかこんなことが!?」


吉川 「石が? ここで拾った石が伝説っぽい幕開けなの?」


藤村 「信じられん。めちゃくちゃツルツルの石じゃないか。いいなぁ」


吉川 「羨ましがるだけ? 魔族来てるのに。いいですよ、あげますよそんなの」


藤村 「本当? 悪いなぁ。じゃあそこにある棒を持て。二本並んでるが右の方のやつだぞ。くれぐれも間違えるな。まぁ、間違えたところで普通の冒険者が持てるはずもないが……」


吉川 「片一方は伝説の棒っぽいな。こっちですか?」


藤村 「バカ! 違う! 右ってこっちだ。あれ? こっちは左か? どっちがどっちだ?」


吉川 「別にこっちの棒も普通に持てますけど」


藤村 「なっ!? バ、バカな……。信じられん。その棒を持てただと!?」


吉川 「ひょっとして伝説の?」


藤村 「持つところに小っちゃい気持ち悪い虫がビッシリついてただろ! よく気にならないな」


吉川 「うわっ、本当だ。気持ち悪っ!」


藤村 「よく持てたなぁ。しばらくはお前の噂で持ちきりだぞ。あんな気持ち悪い棒を持っただなんて」


吉川 「思ってた噂のなり方と違うな。ちょっとエンガチョみたいな存在になってる」


藤村 「ちょっとあんまり近寄るなよ。キモッ! なんか顔もキモい」


吉川 「顔は関係ねぇだろ! そんなこと言ったって魔族が来てるんだろ!」


藤村 「なぁ! 魔族もそう思うだろ? あいつキモいよな?」


魔族 「キモッ!」


吉川 「仲良いのかよ!」



暗転

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