フラッシュモブ

吉川 「当分会えなくなるだろうけど、元気でいろよ」


藤村 「あぁ……」


吉川 「なんだよ、いくら転勤って言っても死ぬわけじゃないんだから。ものすごい暗くない? やめてくれよ」


藤村 「うん……」


吉川 「なんかバタついちゃったからみんなには挨拶できないけど、よろしく言っておいて」


藤村 「うん」


吉川 「まじで今日は暗いな。お前なに? そんなに俺と別れるのがつらいの? 俺とだよ? 別に恋人でもないだろうに」


藤村 「いや、昨日の……」


吉川 「昨日ね。昨日は悪かったよ、本当に。引っ越しの準備が終わらないんだもん。せっかく声かけてくれたのにな。ごめんごめん」


藤村 「まぁ、それはしょうがないんだけど」


吉川 「気持ちだけはちゃんと受け取ったから」


藤村 「でもフラッシュモブが……」


吉川 「なに、フラッシュモブって。え? なんか用意してたの?」


藤村 「してた」


吉川 「昨日!?」


藤村 「昨日」


吉川 「それって俺の?」


藤村 「お前だけのために」


吉川 「そうだったの? 悪い。いや、こっちも知らなかったし」


藤村 「いや、いいんだけどね。こっちが勝手にやったたことだから」


吉川 「なんか悪いことしたなー。結構集まってたんだ?」


藤村 「200人」


吉川 「200人!? うちの部署そんなにいないでしょ」


藤村 「他のところからも。あと4階と5階の人たちも」


吉川 「系列違うのに!?」


藤村 「……と、その家族」


吉川 「家族まで巻き込んで!? その家族にとっては俺は知らない人でしょ」


藤村 「でもお別れだからって言うんで」


吉川 「それでフラッシュモブを用意してたの!?」


藤村 「おかげさまで200人全員欠けることなく」


吉川 「200人欠けることなく集まったのに、大事な俺が行かなかったの」


藤村 「ちなみにこれが200人の写真」


吉川 「うわっ! 本当に200人だ。なんか楽しそうじゃん」


藤村 「それが始まる前。で、これがお前が来ないってわかったあとの写真」


吉川 「え……。戦後みたいな写真になってる。なんか彩度も低い。同じ場所とは思えない」


藤村 「いいんだけどね。しかたないことだから」


吉川 「いや、しかたないって。これはだって。始まる前に練習とかもしたの?」


藤村 「3週間」


吉川 「3週間!? 3週間練習したの?」


藤村 「これ動画」


吉川 「うわっ! なに? みんなグチャグチャになってる。ランボー3怒りのアフガンみたい」


藤村 「練習場所、エアコンなかったから」


吉川 「そんな中で!?」


藤村 「熱中症16人出たけど、みんななんとか本番には間に合ったから」


吉川 「そんな壮絶な練習を? でもあれでしょ? 俺がいなくてもやるだけはやったんでしょ?」


藤村 「いや、現地解散で」


吉川 「やってもいないの!? だってこういうのって、半分くらいはみんなで集まってやるのが楽しいって感じじゃないの?」


藤村 「お前に見せるためにやってたから」


吉川 「思い出にすらなってないんだ」


藤村 「二度と思い出したくないってみんな言ってた」


吉川 「みんなが? 200人が?」


藤村 「いいんだけどね、知らなかったことだし」


吉川 「知らなかったけどさ。そんなに大変なら教えておいて欲しかったよ。教えてくれれば無理してでも行ったよ」


藤村 「今更そんなこと言われても」


吉川 「そうだろうけど、こっちも今更言われたわけで」


藤村 「サプライズのつもりだったから。結果的に俺たちが一番サプライズを受けたんだけど」


吉川 「するつもりなかったよ。俺としてはそこまでしてくれた人にサプライズだなんて」


藤村 「もちろん悪い意味で」


吉川 「だろうね。本当になんて言ったらいいか」


藤村 「でもサプライズは終わらないから」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「今回参加した人の中には地の果てまで追いかけてでも殺すって息巻いてる人もいたし」


吉川 「そこまで殺意抱かせてたの? 俺は全然知らないのに」


藤村 「向こうに行ってもサプライズされるかもしれないけど、元気でな」


吉川 「そんな抜け忍みたいな!」



暗転

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