心霊スポット

藤村 「こっちだってね、迷惑してるんだよ! ワイワイガヤガヤと寄ってたかって」


吉川 「はぁ」


藤村 「地域住民の気持ちを考えたことあるの? あんたらはその場だけ楽しければいいかもしれないけど、こっちは毎日の生活があるのに喧しくされて。それも飽きもせずに何回も来て」


吉川 「いや、多分来てるのは別の人達だと思うんですけど」


藤村 「こっちにとっては一緒なんだよ。顔なんて覚えてないんだから。初めてだからいいですよねって理屈は通らない。何度も来られてうんざりだ!」


吉川 「なんかすみません」


藤村 「まったく、ユーチューバーだかインスタグラマーだか知らないけど」


吉川 「ティックトッカーです」


藤村 「一緒なんだよ! もうそのカーとかマーとかの人種全員一緒なんだよ。こっちからしたら!」


吉川 「でも話題の心霊スポットですし」


藤村 「関係ないんだよ! 心霊がどうこうよりも、お前らが大挙してやってくることの方がよっぽど大問題だよ! 付近の人たちがどれだけ不安がってるか」


吉川 「でもそれはオバケの方も原因と言うか」


藤村 「責任転嫁するなよ! 知らない人間がやってきてカメラ向けられる怖さ考えてみろ!」


吉川 「心霊スポットってそういうものですし」


藤村 「そういうものじゃないだろ! お前らが勝手にそうだと決めたんだろ! こっちはそういうものだと住み始めたわけじゃないんだから」


吉川 「まさかこんなに怒られるとは思いませんでした」


藤村 「想像力が足りてないんだよ!」


吉川 「いえ、想像力があるから心霊とか楽しんでるんですが」


藤村 「だからお前らのその想像力はいないものに対してだろ。いるものに対して想像力を働かせろよ! そこに暮らしてる人たちとかさ」


吉川 「人たちはいないんじゃ?」


藤村 「いるだろ! あそこでいつも石ころで絵を描いてる女の子とか!」


吉川 「……いないですけど?」


藤村 「いる! ……え? いないってどういうこと?」


吉川 「いないです。見えないです」


藤村 「え、あれ。じゃあ、おじさんは? 将棋盤をずっと見て悩んでるおじさん」


吉川 「そんなのいませんけど」


藤村 「うそ……。あの女の人は? ちょっと口紅がはみ出しすぎて顔中赤くなってる女の人」


吉川 「血みどろじゃないですか。オバケでしょ、それ」


藤村 「まじか。じゃああの、ちょっと年齢はわからないけど、首から上がなくてずっと壁にぶつかり続けてる男性は?」


吉川 「もうその時点で気づきません? 首から上がない理屈が思いつかない」


藤村 「あそこでこっちを睨んでるガーゴイルは?」


吉川 「ガーゴイルがいるの!? 西洋の? ガーゴイルが近隣住人って思える?」


藤村 「多様性の時代だから」


吉川 「逆に心霊って思わないか。ガーゴイルは」


藤村 「だったらあの、朝から晩までずっとヒトラーの演説を諳んじてる人は?」


吉川 「それは見えます」


藤村 「いるの!? 本当の人? あの人は本当なの? 逆に怖い」


吉川 「それも名物になってるんで。心霊スポットの心霊を呼び寄せてるのあの人なんじゃないかって噂も」


藤村 「まじか、あの人が一番人としての存在が危うそうだったのに」


吉川 「ガーゴイルよりも? まぁ、私もこれ以上あの人に近づきたくはないですけど」


藤村 「ハッ!? ひょっとして、この俺も……」


吉川 「いや、見えます。話も出来てるし」


藤村 「あなたがそういう人なだけの可能性があるじゃん。シックスセンス的な」


吉川 「だったらガーゴイル見えてるでしょ」


藤村 「いいや! 信じられない。どうせ俺もオバケなんだ。ちんちんとか出してもいいんだ!」


吉川 「オバケだからってそういう発想にならなくない?」


藤村 「他の人には見えないんだから出してもいいだろ!」


吉川 「出してもいいっていうか、出したくないだろ。なんでオバケなのをチャンスと考えてるんだ」


藤村 「だって噂になってるんだろ? この辺で出るって……」



暗転

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