能力バトル

吉川 「なるほど。確かにユニークな能力だね。しかしキミはボクには勝てないよ。ボクの能力を知ってるかい?」


藤村 「いや、興味ないんで」


吉川 「興味ない!? 興味なくはないだろ! キミの能力を遥かに凌ぐ能力者が立ちはだかって」


藤村 「いえ、本当に」


吉川 「持てよ! 興味を! これから戦うの! 何だったら命がけのやつ」


藤村 「いいすか? 始めちゃって」


吉川 「興味を持たないまま!? ボクの能力を知るチャンスが今あるんだけど? 今まで数々の能力バトルを生き抜いてきたんだよね? セオリーとして相手の能力の把握ってあるでしょ!」


藤村 「流れで、どうにかしていくんで」


吉川 「流れでっていう時もあるけど! せっかくなんだから今聞いておいた方がお互いに納得しながら戦えるじゃない。なんだろ、なんだろ、って思いながらだと後手に回っちゃうよ」


藤村 「別に気にしないんで」


吉川 「しろよ! 重要だよ? 能力バトルにおいて一番重要。その駆け引きがなかったらもう能力バトルじゃないじゃん。じゃんけんとかと一緒になっちゃうよ」


藤村 「言いたいんすか?」


吉川 「言いたいってわけじゃないんだよ。そんな自意識過剰じゃないよ。ただボクはキミの能力を知ってるのに、キミが知らないってのはフェアじゃないかなって思って。そりゃ考え方は違うけど別にボクは悪人じゃないから」


藤村 「はぁ、考え方……」


吉川 「そこも!? そこも把握してないの? じゃあなんで戦ってるの?」


藤村 「なんか、出てきたから」


吉川 「出てきたって、春先の山菜みたいに言うなよ! ボクはボクで事情があるんだよ! 背負ってる物語があるんだから」


藤村 「あ、ちょ、すいません。なんかメッセージが」


吉川 「スマホに意識を取られてる? それなりに緊迫した場面なんだけど。あのさ、もしボクがズルいやつだったらそのすきにどうにでもできるんだよ?」


藤村 「あ、ちょ」 


吉川 「聞いてる? 早く!」


藤村 「えーと……」


吉川 「長文を返そうとしてるの!? いいだろ、既読だけで! せいぜいスタンプだけで返せよ。なにしっかり返事しようとしてるんだよ。その間にこのボクの手持ち無沙汰はどうするんだよ!」


藤村 「そっちはそっちでなんかしててください」


吉川 「こっちはこっちでやらないんだよ! ボクとキミ! 初めての共同作業なんだから! こっちで先にやっておきますねってこなせるタスクじゃないんだよ!」


藤村 「……」


吉川 「せめてリアクションして! 完全にスマホに持ってかれてる! 見て! 見ーてー!」


藤村 「あ、終わりました?」


吉川 「終わってねえよ! 終わりってなんだよ! こっちはそっちが終わるの待ってるんだよ! こっちが何かを終わることなんてないんだから。まだ始まってすらいないんだから!」


藤村 「すみません。あとちょっと、いいねだけ」


吉川 「いいねは一刻を争わないだろうが! この状況よりも先んじるいいねはないよ! まじでガーンてできるからね、今。やらないけど! やらないでおいてあげてるけど!」


藤村 「まじか……。知ってました? また不倫発覚だって」


吉川 「時事を! 時事を今取り込むなよ! こっちの気も取られちゃうだろうが! 後で全然できることなのに」


藤村 「で、なんでしたっけ?」


吉川 「なんでした? この状況忘れてる? ギリギリの戦いなの!」


藤村 「あー、はい。じゃあそれで」


吉川 「しょうがなく承認しましたって感じでいなさないでくれる? なんなの? Z世代なの?」


藤村 「フフフ。Z世代て」


吉川 「あ、ちょっとウケた。なんでウケたかもわからないけど。全然話聞いてないわけじゃなかったんだ。多少気が楽になった」


藤村 「ふふ……。Z……」


吉川 「意外とハマってるな。どうでもいいよ、もうそれは。あの、言うよ? ボクの能力。聞いてるよね?」


藤村 「あ、すみません。どうぞ」


吉川 「いい子! そもそも素直でいい子なんじゃない! お互いに信念があって戦ってるけど、もしこういう出会じゃなかったら仲良くなれたんじゃないかって思うよ。でも戦うしかない。それがボクとキミとの運命だから」


藤村 「え、なんて?」


吉川 「聞いてろ! 結構大事なとこ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る