かける

吉川 「はぁ~。なかなか立派なお屋敷で」


藤村 「そうですね。実は数年前かな? 世界遺産になりかけたんですよ」


吉川 「え!? あの世界遺産に? すごいですね!」


藤村 「まぁ、私はよく知らないんですが、色々とやってたみたいですよ」


吉川 「世界遺産に。へぇ~!」


藤村 「あんまりないでしょ。世界遺産になりかけたってのも」


吉川 「はい。なりかけたんですか。世界遺産には結局なってないんですよね」


藤村 「なりかけたね。もうあれはかなりなりかけてたな」


吉川 「なりかけただけですか?」


藤村 「そう言うけどね? なりかけるのもすごいじゃないですか? あなた人間国宝になりかけたことあります?」


吉川 「いいえ、ないです。全然。すごいと思います」


藤村 「そうでしょ。そのあとね、話を聞いたのか市の方が特別施設みたいのに指定させてくださいって言ってきたんですけど。足元見るなって断りましたよ。なんせこっちは世界遺産になりかけたんだから。世界と市じゃレベルが違う」


吉川 「でもなってはないんですよね?」


藤村 「なりかけたから。ほぼほぼなってる感じのなりかけだったから」


吉川 「なりかけってのがよくわからないんですけど。具体的にどの段階まで来てたんですか?」


藤村 「具体的? 具体的にどうって言われても、なりかけはなりかけよ」


吉川 「結構最後の調整段階みたいな感じで?」


藤村 「まぁね。最後の最後で流石に無理って言われたけど」


吉川 「流石に無理って言われたんですか? そんな断られ方ある?」


藤村 「もう手が届いてたけどね。あとは首を縦に振るだけみたいな」


吉川 「その段階で流石に無理って言いますかね? 序盤も序盤の書類審査レベルじゃないですか?」


藤村 「あのね、例えば高校野球を例に出すね? 甲子園で決勝で破れた。準優勝校っていうのも、予選の前に部員が全裸で踊る動画を出して炎上して活動停止にされた高校も、どっちも優勝はしてないでしょ? だけどどっちも大切な青春の一頁という意味では等価値でしょ?」


吉川 「等価値……かなぁ? 全裸で踊った方は優勝しかけたたとは言わないですよ?」


藤村 「でも逆に言えばたとえ甲子園で優勝しても全裸で踊りかけてはいないわけじゃない?」


吉川 「そこは別に目指してないでしょ。全裸で踊り大会じゃないんだから」


藤村 「でも全裸で踊りかけてる高校生も多いよ?」


吉川 「そりゃ、高校生ってそういうこと面白がりがちだから。中にはいるでしょうけど」


藤村 「ここよく見て。なんか変な傷あるでしょ」


吉川 「あー、なんか擦ったのかな?」


藤村 「プリウス。老人の乗ったプリウスに突っ込まれかけたの」


吉川 「うわぁー。大変だ」


藤村 「どう? 他の世界遺産はプリウスに突っ込まれかけてる?」


吉川 「え? そんなことあんまりないと思いますけど」


藤村 「プリウスよく来るよ? 年3くらいで突っ込まれかけてるから」


吉川 「年3回? 同じ人ですか?」


藤村 「いや、様々なプリウスが。手変え品変え突っ込みかけてくる」


吉川 「呪われてるんじゃないですか?」


藤村 「世界遺産になりかけて、なおかつプリウスに突っ込まれかけてるんだから」


吉川 「そんな技有りと技有りで合わせて一本みたいな判定にはならないですよ?」


藤村 「じゃあそうだな。春先に変質者が出かける」


吉川 「出かけるってなんですか?」


藤村 「ギリギリ出るまではいってないけど、ほぼ出てるみたいな」


吉川 「出かけてるだけの変質者はまだ変質者じゃないじゃないですか?」


藤村 「チョイ見せタイプの」


吉川 「知らないですよ、変質者のタイプは。たとえそれがいたとしても世界遺産と全然関係ないでしょ」


藤村 「プリウスと変質者だよ? こんなの他の世界遺産じゃ絶対にお目にかかれないよ?」


吉川 「組み合わせてもマイナスとマイナスだから。全然プラスに転じない」


藤村 「じゃあほら! ここの門のところ見て! ほらほら!」


吉川 「なんですか、なんかここだけ変色してる」


藤村 「ここ夜中に酔っ払いがいつもおしっこかけるんだよね」


吉川 「それはかけかけてるんじゃないのかよ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る