どっちだ?

藤村 「おぉ。吉川くんか」


吉川 「あ、藤村部長。お疲れ様です」


藤村 「こう暑くちゃ外回りも大変だな」


吉川 「本当ですよ。藤村部長に例のプロジェクトをまとめていただいたんでまだ助かってます」


藤村 「それなんだが、どうも和がな」


吉川 「和? と言いますと?」


藤村 「ほら、一つのプロジェクトに取り組む仲間意識のようなもの。とは言え、今どき飲みニケーションで親睦を図るなんてのも若い人には逆効果だろ」


吉川 「そうですねぇ、なかなか難しいですね」


藤村 「みんなの心が一つになるような何かがあればいいんだがな。そう言えば例のネットニュース。なんだかあれで持ち切りだな」


吉川 「あぁ、不倫の?」


藤村 「それだ。キミはどう思うかね。ああいうの」


吉川 「まぁ、そうですね。驚きはしましたよね。まさかあんなに清楚なイメージがあったのに」


藤村 「キミはあれかね? そういう他者のプライバシーに踏み入るのをなんとも思わないのかね?」


吉川 「あ、いえ。そんなことはないですけど」


藤村 「たとえ有名人といえど、我々と同じ人間だ。過ちも犯すだろう。もし自分がそうなった時に無関係の人間が土足で踏みにじってくるようなことを許せるのかね?」


吉川 「そんなつもりはなかったんですが」


藤村 「かくいう私もね。……そういう話が大好きでね!」


吉川 「ですよねー! 知ってました、相手? なんか実業家って言ってるけど、相当怪しいことしてるらしいですよ」


藤村 「本当かね? どこがいいんだかな、あんな男」


吉川 「本当ですよ。あれでいけるんなら藤村部長なんかもうジャストミートじゃないですか」


藤村 「バカなこと言っちゃいけないよ。キミはあれかね? この私が家庭を顧みずに不倫なんてすると思ってるのかね?」


吉川 「あ、いや。そういうつもりはなく」


藤村 「チャンスさえあればなぁ! もうこっちの準備はいつでも出来てるのに!」


吉川 「ですよねー! 部長も若い頃は派手に遊んでたんじゃないですか?」


藤村 「それはなにかね? 私はもう若くないと遠回しに言ってるのかね?」


吉川 「いえ、そういうつもりではなくて」


藤村 「ほら、これ見て。肝臓の数値最悪! 80歳の身体って言われちゃった。あまりにもヒドいから見せびらかすために健康診断のやつ持ち歩いてるの」


吉川 「あちゃー。これは逆にすごいですね。太く短く生きすぎじゃないですか」


藤村 「こう見えても昔は悪いことは結構したもんだよ」


吉川 「そうなんですか。でもそういう経験ってむしろ落ち着いてしまうとできないから貴重ではありますよね」


藤村 「どういうことかね? キミはあれかね? 犯罪行為を礼賛したりするつもりかね?」


吉川 「あー、いや。もちろん犯罪はその、よくはないですよね」


藤村 「だから?」


吉川 「いえ、だからその。よくはないです。やってはいけません」


藤村 「からの?」


吉川 「からの!? からのまで求められるとは思ってなかったんですけど、ただ犯罪を犯す人にも事情がある場合もあるので」


藤村 「さらに?」


吉川 「犯罪行為自体には問題はあるものの、過去に起きたことを引き合いに出して現在を叩くような行為も恥じるべきだと思いますし」


藤村 「言うなれば?」


吉川 「いちいち細かいことで叩くようなやつは結局そういったことをする勇気もなく、羨ましがってるだけの臆病で卑怯な人間なんですよ!」


藤村 「つまり?」


吉川 「ちょっとくらいの悪さは人間らしさの証! 文句言うやつが悪い!」


藤村 「キミはそういうスタンスで仕事に取り組んでるのかね? こう見えて私は……」


吉川 「どっちだ? どっちだ!? 頼む……」


藤村 「会社傾くくらい横領してるんだよ」


吉川 「イエス! え?」


藤村 「今から共犯だ」



暗転

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