探偵

藤村 「失礼ですけど、これは物取りの犯行ではないのではないでしょうか?」


吉川 「なんだ、キミは? 今捜査中だぞ」


藤村 「失礼しました。でもこちらの被害者の方、軽装でどこかに出かけるという格好でもない。そして転んだ際に手をついていないということは何か持っていたはずです。恐らくペットボトルやビニール袋。つまりこの被害者は散歩の最中だった。中型から大型犬だと思います」


吉川 「なんだと!?」


藤村 「犬の方はこの事態に驚いて逃げたのでしょう。その際に持っていたものはどこかに飛ばされたか。そして考えてみてください。もしあなたが強盗だとして、路上で襲おうという時に中型犬以上の大きさの犬を連れた人を狙いますかね?」


吉川 「しかしキミの言ってることはすべて想像じゃないか」


警官 「警部! 近くの植え込みからペット用と思われるトイレ掃除セットと水が発見されました」


吉川 「なっ!? キミ、もう少し話を聞いていいかな?」


藤村 「もちろんです。犬探偵として当然のこと」


吉川 「犬探偵!? 申し遅れました。この事件を担当する警部の吉川です。あなたは動物行動学者かなにかで?」


藤村 「いえいえ、私は藤村。ただの前世が犬のものです」


吉川 「……は?」


藤村 「前世が犬です。なので犬のことならなんでもご存知」


吉川 「それで犬探偵?」


藤村 「人呼んで、ですね。どうしても周りのものがそう呼ぶので」


吉川 「犬の気持ちがわかったり?」


藤村 「前世が犬ですから」


吉川 「ちょっとそこが全然飲み込めないんだけど。別に動物に詳しいとか、そういうのではなく?」


藤村 「他の動物のことにはからっきしです。猫がなんでゴロゴロ言うのかもわからない」


吉川 「まぁ、あれはあんまりよくわかってないみたいですが」


藤村 「しかし見てください。この被害者の服についている毛、これは犬の毛ではありません」


吉川 「なんだって!?」


藤村 「これは……恐らく猿の毛。ということはこれはあいつが仕掛けた事件に違いない!」


吉川 「猿の毛? 猿の毛で目星つくの? 犯人の?」


藤村 「ええ。もちろんです。私の因縁のライバル。猿怪盗です!」


吉川 「なにそれ。その人も前世が猿なの?」


藤村 「その通り。前世が猿なのを利用してあらゆる悪事を働く憎き奸賊です!」


吉川 「前世が猿なのを利用して? 利用できる? それが効果的な場面って現実に存在する?」


藤村 「やつの支配下には何百という猿がいるのですよ?」


吉川 「猿に命令して? それは恐ろしいな」


藤村 「ただ命令される側が猿なので統制はとれてません。人間にすればいいのに」


吉川 「役に立ってないじゃん。なんなんだよ、猿怪盗!」


藤村 「今どき闇バイトで募れば、言うこと聞く人間がいくらでも集まるというのに」


吉川 「サラッとそういうこと言うなよ」


藤村 「まぁ、それで集まるのは猿とどっこいどっこいの知能の人間ですが」


吉川 「可哀想なこと言うなよ。問題になってるけど、もうちょっと穏やかな言い方があるだろ」


藤村 「とにかく、この件は猿怪盗の匂いがする。私の鼻を甘く見ないで欲しい」


吉川 「ようやく前世が犬要素を出してきたな」


藤村 「しかしやつは黒幕。他に実行犯がいるはずです」


吉川 「猿なんじゃないの? 実行犯。猿じゃ捕まえられないよ」


藤村 「いいえ。猿はそこまで明確に命令を聞けませんから。だって猿ですよ? そんな便利に使える? ファンタジーじゃないんだから」


吉川 「前世を推してる人がそういうこと言っちゃうの? そりゃ、猿には無理だとは思ってますけど」


藤村 「私の知り合いにうってつけの人物がいます。彼にかかれば真犯人が誰かなどすぐに分かる」


吉川 「一体それは?」


藤村 「犯人探偵。前世が犯人だった者です」



暗転

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