裏メニュー

吉川 「あれ? これってこんな味だったかな?」


藤村 「お客様、今なんと?」


吉川 「いえ。すみません」


藤村 「味の方がどうかされましたか?」


吉川 「前に食べた時とちょっと違う気がしたので……」


藤村 「お気づきになられましたか」


吉川 「やっぱり?」


藤村 「最近このお店もSNSで話題になってまして、ありがたいことに多くのお客様に来てもらってます。しかしそうなると、今までのようなやり方では間に合わなくて苦渋の決断でしたが、変更させていただいたんです」


吉川 「あー、やっぱり人気だもんな。ちょっと悲しいけどしょうがないか」


藤村 「いいえ、お客様! お待ち下さい。以前からご愛顧いただいていたお客様には以前と変わらないものをお出しすることができます。もちろん追加料金などはありません。こちらを味わってみていただけませんか?」


吉川 「あ、そうなの? それはありがたいけど」


藤村 「でもこれは裏メニューということでご他言無用でお願いします」


吉川 「わかりました。あ、こっちがそうなんですか?」


藤村 「はい」


吉川 「では……。あ、これだ。やっぱりちょっと違いますね」


藤村 「お気に召されたようで何よりです」


吉川 「あれ、でも……」


藤村 「まさか! お気づきになられましたか?」


吉川 「まだなにかあるの?」


藤村 「実は素材の方も、かつての業者では量が足りず、今まで付き合いのなかった業者に頼んではいるのですが、以前ほどのクオリティには及ばずに」


吉川 「素材もかぁ。人気になるのも良し悪しだなぁ」


藤村 「でもこちらに用意しましたこれは、かつてと同じ素材を使ったもので」


吉川 「また来た。え? ありがたいですけど。ちょっと量が」


藤村 「裏メニューですので、何卒ご内密に」


吉川 「ではいただきます。あー、違うか。やっぱり違うのかな」


藤村 「さすがお味のわかる方」


吉川 「う~ん、でも……」


藤村 「お気づきになられましたか?」


吉川 「え、またなんかあるの?」


藤村 「ええ。急激に忙しくなったにも関わらず新しい従業員の募集が間に合わずに人手不足で。スタッフは皆語尾に◯ァックなどついている始末で」


吉川 「忙しすぎて? それは良くないな。忙しい忙しくないとかじゃなく、サービス業で◯ァック連発されるの良くないよ」


藤村 「さすが以前からご愛顧いただいてる方。ではこちらをどうぞ」


吉川 「また来たんだけど。量が。頼んだのの4倍きてる」


藤村 「こちら、◯ァック無しで提供させていただいております」


吉川 「味は変わらないじゃん。出し方でしょ? 新しいのいいよ」


藤村 「◯ァックなしの喉越しを是非味わっていただきたく」


吉川 「◯ァックで喉越し変わらないんだよ。ありがたいけど」


藤村 「こちら裏メニューですので、何卒ご内密に」


吉川 「わかったけど。量がさぁ……」


藤村 「おや、お気づきになられましたか?」


吉川 「気づいてない! もう何も気づいてない。前に来た時と一緒だった」


藤村 「今、量がと申されましたが、正しくその通り。量の方もケチってました」


吉川 「良くないよ、そういう営業は。大変だろうけど」


藤村 「はい。反省の意味も込めてこちらをドン!」


吉川 「ドンって出すなよ。ワンピースかよ。大盛りを! 多いよ! どう考えても食べられないよ」


藤村 「今なんておっしゃいました?」


吉川 「何も言ってないです」


藤村 「食べられ?」


吉川 「言ってないです」


藤村 「では念のために録画しておいた動画を確認しましょう」


吉川 「なんでそこまでしてるの? 盗撮だろ。怖いよ、なにこの店」


藤村 「今なんておっしゃいました?」


吉川 「無限地獄じゃん。もういいです。ご馳走様! 美味しかったです。もう満腹食べられません」


藤村 「ではこちら裏メニューということですので、お会計の方ですがお店出て右側の路地を入ったところの窓口でお支払いください」


吉川 「裏取引!」



暗転

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