亀  「どうもどうも、その節はお世話になりました」


吉川 「あっ!? ひょっとしてあの時の亀さん?」


亀  「はい。あなたが助けてくれなかったら今頃どうなってたことか」


吉川 「そうですか。元気な様子でなによりです」


亀  「おかげさまで」


吉川 「……」


亀  「では、そういうことで」


吉川 「え?」


亀  「はい?」


吉川 「え? 帰る感じですか?」


亀  「他になにかありましたらあれですけど」


吉川 「なにかっていうか、あの。そっちこそなんかあるんじゃないですか?」


亀  「?」


吉川 「いや、私は亀さんを助けましたよね?」


亀  「はい」


吉川 「となると……」


亀  「金銭ですか?」


吉川 「いやいやいや」


亀  「そういう人だと思わなかったなぁ。あぁ、そうですか。払え、と」


吉川 「違います! お金じゃない!」


亀  「お金じゃない? 命?」


吉川 「そんな非道じゃないですよ! あの、ほら。亀と言えば」


亀  「亀と言えば? 逆にピンと来ないな。あなた人間と言えばって言われたら具体的にすぐ答え出ます?」


吉川 「いや、人間は想定できる答えが多すぎると言うか、絞れないですけど。亀はほら」


亀  「亀バカにしてます? 亀なんて大した要素ないだろって見下してます? 陸か海かくらいなもんだろって」


吉川 「違いますよ。ほら! 亀さんを助けると言えば?」


亀  「ひょっとして……」


吉川 「そう!」


亀  「エッチな話ですか?」


吉川 「そうじゃない! 全然そうじゃない。そんな期待してないよ! 竜宮城でしょ!」


亀  「あー、竜宮城。……が、どうかしました?」


吉川 「あなた竜宮城の関係者じゃないの?」


亀  「え、なんでそれを? ひょっとしてあなたも?」


吉川 「いや、違いますよ。私はただの人間だから」


亀  「ですよね。見たことないから。じゃぁなんですか?」


吉川 「連れてってくれるんじゃないの?」


亀  「竜宮城に? 来たいんですか?」


吉川 「行きたいというか、話の流れ的にそうなったらやぶさかでないというか」


亀  「なんで? なにもないですよ?」


吉川 「ないことはないでしょ! 鯛やヒラメが舞い踊ったり」


亀  「あれ、素人ですよ? 正直見てられないですよ。普通にショーパブ行った方がマシ。時間の無駄です」


吉川 「そうなの? 素人の鯛って意味がわからないけど」


亀  「逆にプロの鯛なんているんですか?」


吉川 「知らない。魚介類はみんな素人か。そういうものなの? すごいハッピーな空間じゃないの?」


亀  「どうかなぁ。昔はわからないですけど、流石に何百年もやってますからね。創業当時のテンションで続けるってのは無理ですよ」


吉川 「そうなんだ。全員なんか倦怠感みたいの出てるのか」


亀  「それでも来たいって言うなら止めはしないですけど。来たあとで思ったのと違ったとか言われても困るんで」


吉川 「話聞くだけで思ったのと違ってる」


亀  「あと別に私を通さないでも行けますよ。SUGOCAで」


吉川 「SUGOCA!? あの九州のSUICAみたいの? 九州にあるの?」


亀  「SUICAでもICOCAでも行けると思いますよ。私はSUGOCA使ってるだけなんで」


吉川 「だってその、亀さんの先導がないと息が続かない的なやつがあるんじゃ?」


亀  「今どきスキューバのセットくらいどこにでもありますよ」


吉川 「そういうセットで。もっとマジカルな要素じゃないんだ。ダイビングスポットみたいになってるの?」


亀  「昔はほら、娯楽が少なかったから。あんなのでも喜んでもらえたみたいだけど。この令和の時代に竜宮城なんてねぇ。はっきり言って恥ずかしいです」


吉川 「そう思ってたんだ。もっとメルヘンな話だと思ってたもんで」


藤村 「おい、兄ちゃん。ちょっと金貸してくれんかのぉ?」


吉川 「え、なんですか。誰ですかあなた?」


藤村 「誰とかええじゃろ。頼んどるんよ。金貸してくれんかの?」


吉川 「い、嫌ですけど」


藤村 「なんやと!?」


亀  「おやめなさい。それ以上やると私のティンベーとローチンが炸裂しますよ」


藤村 「ひっ、亀!? なんで亀が!? キモッ!」


吉川 「ありがとうございます。おかげで助かりました」


亀  「じゃあ助けたお礼に、ショーパブ奢ってもらえます?」


吉川 「あ、そんな感じの話だったの!?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る