踊らせ屋

藤村 「いかがですか? 踊らせ」


吉川 「おど? なに?」


藤村 「踊らせ屋です。殴らせ屋とかってありますよね? 一分間好きなだけ殴りかかっていいですよっていうの」


吉川 「あー、あれの踊り版?」


藤村 「簡単に言うとそんな感じです」


吉川 「う~ん、別にいいかな」


藤村 「今ならサービスで凄く安くなってます。一分100円」


吉川 「それは安いな。そのくらいなら試しにやってもいいかも」


藤村 「ありがとうございます。ではなんでいきます? ジャンルは」


吉川 「あ、踊りのジャンルがあるの? ジャズダンスとか? クラシックバレエとか」


藤村 「まぁ、こっちにできることとできないことがあるので。無茶を言われたら暴力で解決しますけど」


吉川 「暴力って何? 踊りじゃなくて?」


藤村 「聞き分けのない客にはやっぱり実力でわからせないと」


吉川 「急に怖いこと言い出したな。こっちはお金も払ってるのに」


藤村 「とはいえ暴力は最後の手段です。できることならこっちも使いたくない」


吉川 「なんか迂闊なこと言えなくなったな。ジャンルはお任せでいいです」


藤村 「お任せいただきました! これが一番ありがたい!」


吉川 「よかった」


藤村 「では踊らさせていただきます。ジャンルは反ワクチン。ワクチンを打つと身体が5Gになるから! あと私の知り合いワクチン打ったせいでガンが一気に10箇所くらいできたから!」


吉川 「……なに?」


藤村 「ワクチンなんて国が儲けるためにやってるだけだから! 政治家は製薬会社から金をもらってるし!」


吉川 「ちょっと。踊りは?」


藤村 「はい。踊らさせていただきました」


吉川 「なに? 全然楽しそうな動きがなかったけど」


藤村 「反ワクチンに踊らされる人です」


吉川 「そういう!? 踊りってそういうの?」


藤村 「色々なジャンルがあるんで」


吉川 「いや、だって。踊りってダンスだと思うじゃない」


藤村 「ダンスは疲れるんで。暑いし」


吉川 「そうだけどさ。そんなの了承済みでこういうことやるんじゃないの?」


藤村 「結構ひねりを入れたつもりだったんですが」


吉川 「捻り過ぎだよ。雑巾絞ってるんじゃないんだから。そんなにひねらないで素直に踊ってよ」


藤村 「タワマンの高層マウントに踊らせる人の方がよかったですか?」


吉川 「そんなのしかないの!? ジャズダンスとかは?」


藤村 「やれっていわれればやりますけど。見て良し悪しなんてわかります?」


吉川 「失礼なこと言うな。そりゃあんまり的確なレビューはできないかもしれないけど、素人目に見ても上手い下手はわかるだろ」


藤村 「もしよかったら、一緒に踊るっていうのはどうです?」


吉川 「俺が? 俺はだって、踊ったことないもの」


藤村 「皆さんそういうんです。でもね、踊りってのはそもそも世界中どんな人でもやってることなんです。原始人だって音に合わせて身体を動かしてた。もちろんプロのように上手くはできないでしょうけど、だからと言って楽しめないわけじゃない」


吉川 「踊ったのなんて小学生以来だよ」


藤村 「丁度いいじゃないですか。まず簡単なステップから。ワンで右足を横に、ツーで左足をそこに添える。スリーで左足を横に、フォーで元の位置に戻る。これだけでちゃんとステップになってます」


吉川 「ワン、ツー、スリー、フォー」


藤村 「あ、上手です。そうですそうです。それをリズムに合わせてやれば、もう十分踊りですから」


吉川 「なんかちょっと楽しいかも」


藤村 「じゃあ一緒に。カウントに合わせてゆっくりいきましょう。ワン、ツー、スリー、フォー。投資をやらないやつはバカ。結局好きで貧困やってるだけなんだよ!」


吉川 「投資をやらないやつはバカ。結局好きで貧困やってるだけなんだよ!」



暗転

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