応援

藤村 「暇だったら飯食いに行かね?」


吉川 「悪い、ちょっとこれからやらなきゃならないことがあって」


藤村 「どうした?」


吉川 「仕事で。ちょっとやらかしたみたいで取り急ぎ謝罪のメールを送らなきゃならない」


藤村 「そうか。大変だな」


吉川 「悪いな」


藤村 「バカ言うな。こうなったらウカウカしちゃいられないぜ。もう相手の目が飛び出るくらい最高の謝罪のメールを送ってやろうじゃないか!」


吉川 「いや、謝罪のメールにそんなテンションは要求されないから。定型文でいいし」


藤村 「相手はそれでいいかも知れないけど、お前はどうなんだ? 無二の親友の頼みを断ってまで書く謝罪のメールを、そんなお茶を濁すようなもので済ませていいのか?」


吉川 「なんだよ。介入してこなくていいよ。こっちの仕事なんだから」


藤村 「見損なうな! お前が困ってる時にウカウカしてる俺だと思ってか?」


吉川 「いいからウカウカしててくれよ。そもそもウカウカってなんだよ。何することなんだよ?」


藤村 「こうなった以上、全力で応援させてもらおう!」


吉川 「謝罪メールを書くのに応援は必要ないんだよ」


藤村 「フーレ! フーレ! 吉川!」


吉川 「フレーフレーだろ。フーレフーレはあんまり聞いたことないよ。気持ち悪くて気になる」


藤村 「容赦なくぶっ殺せー! オー!」


吉川 「物騒だな。謝罪メールを書くのに一番備えちゃいけない心構えだろ。ちょっと集中したいから静かにしていてくれない?」


藤村 「しーずっかにっ! しーずっかにっ! ご一緒に! しーずっかにっ! しーずっかにっ!」


吉川 「うるせえんだわ。主旨がまったく伝わってない。あとご一緒を誘うなよ。こっちはメール書くって言ってるんだから」


藤村 「メ・エ・ル! メ・エ・ル! 早いぞ、早いぞ、メ・エ・ル!」


吉川 「なんの応援だよ? メール自体の応援? 概念を応援するなよ」


藤村 「かっとばせー! 担当の首!」


吉川 「物騒パート2だな。弊社の担当になにか恨みでもあるの?」


藤村 「終わった?」


吉川 「終わってないよ。全然進んでないよ。周りがうるさすぎて」


藤村 「あるある!」


吉川 「諸悪の根源がそう言ってるならもう改善するとは思えない」


藤村 「ちょっと大きな声出したら喉が乾いちゃって。何か買ってきてくれる?」


吉川 「俺が!? タスクが目の前にあるこの俺が! 邪魔しかしてないお前に!?」


藤村 「こう考えたらどうだろ? 買いに行けば一時的に邪魔から逃れられるってさ」


吉川 「邪魔と自覚してるならやめてくれない?」


藤村 「うーん、こればっかりはちょっと難しいかな」


吉川 「なんでだよ! やる必要ないだろ! 応援はいらないんだよ」


藤村 「その思い上がりがよくない。人は応援なしには生きていけないぞ? 試しにほら、俺のことを応援してみ」


吉川 「なんで? 絶対に嫌なんだけど」


藤村 「いいから。騙されたと思って」


吉川 「お前の何を応援すればいいんだよ。邪魔ばっかりしてるくせに」


藤村 「その邪魔さを応援しようよ。プラス思考でさ」


吉川 「誰のなんに対するプラスなんだよ。もうわかったよ。フレーフレーじゃーま」


藤村 「そこはフーレフーレ、な?」


吉川 「訂正するなよ! フレーで合ってるんだよ! フーレに何かこだわりがあるのかよ」


藤村 「どう? 応援することで逆に気持ちがわかってきたんじゃない?」


吉川 「一個もわからない! ひょっとしたらなにか発見があるかと思ったけど無だった。砂漠だったよ」


藤村 「あるある!」


吉川 「じゃあ、やらせるなよ! わかってたなら」


藤村 「もういいからパッパと書いちゃおう! 定型文で」


吉川 「さっき定型文はやめろって言ったのお前だろ! まぁ、これでいいか」


藤村 「終わった?」


吉川 「終わったよ! やっとだよ! すごい無駄に時間掛かった。じゃあ飯食いに行く?」


藤村 「いや、悪いけどちょっとやらなきゃならないことがあって」


吉川 「お前がかよ! じゃあなんで邪魔してたんだ。なにをやるんだよ?」


藤村 「ウカウカ」



暗転

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