英語禁止

吉川 「じゃあ、あっち向いてホイで決めようか」


藤村 「普通にやっても面白くないからさ、英語禁止にしよう」


吉川 「え。まぁ、いいけど。ジャンケンポン。あっち向いてホイ」


藤村 「ジャンケンポン。あっち向いてホイ」


吉川 「ジャンケンポン。あっち向いてホイ。あ、勝った」


藤村 「クソォ! 負けた」


吉川 「うん、勝った」


藤村 「ちくしょー!」


吉川 「英語禁止の意味あった?」


藤村 「なにが?」


吉川 「だから英語禁止って事項を追加したじゃん」


藤村 「した」


吉川 「意味あった? 普通使わないよね。あっち向いてホイに」


藤村 「確かにあっち向いてホイには余り使わないかな」


吉川 「もしかしてホイが英語ってこと?」


藤村 「いや、ホイは日本語だろ。あっち向いてホイが日本語なんだから。船乗りの返事でそういうのが英語にあるけど」


吉川 「だよな。じゃあ、意味なかったんじゃ」


藤村 「それはまだわからないだろ」


吉川 「まだってどういこと?」


藤村 「今後いつ英語を使うかまだわからないじゃないか」


吉川 「え? 英語禁止は続いてるの? あっち向いてホイの追加事項じゃなくて?」


藤村 「英語禁止は続いてるよ。むしろなんで終わったと思ってるんだよ。ハラハラもドキドキもしてないのに」


吉川 「いつまで?」


藤村 「死ぬまでだよ」


吉川 「死ぬまで!? 人生をかけてやり続ける勝負になったの? あんな軽率に始まった英語禁止が」


藤村 「まぁ、どっちかが死ぬまでだな。死がふたりを分かつまで」


吉川 「そんな結婚式の誓いくらい重要なら事前に言っておいてよ」


藤村 「でも人生ってそういうものじゃない? なんか普通に生きてるけどさ、税金を払わなきゃいけないとか、知らない間にそういう事になってるって気づくわけじゃん」


吉川 「そもそも覚悟をしてなかったお前の責任みたいなことになってない? 税金とはまったく違うでしょ」


藤村 「でも税金も死ぬまでだよ? 政治家がいくら死のうが税金がなくなることないんだし。そんなの生まれる前に聞いてた?」


吉川 「あらゆることは生まれる前には聞いてないよ!」


藤村 「モーツァルトは聞いてたよ」


吉川 「胎教! お母さんが健やかに育つように聞かせてくれてたんだ! モーツァルトは英語じゃない?」


藤村 「人名だしオーストリアの人だからどっちかというとドイツ語だな」


吉川 「そんなモーツァルトを聞かされお母さんの愛情を一身に受けて、こうして大人になって税金に文句を垂れてるの悲しいな」


藤村 「あの時、税金あるから気をつけなって一言言われてたら、もうちょっと生まれるの悩んだのに」


吉川 「悩んでどうするの? 胎児が。もうちょっとお腹の中にいようかな、って火拳の使い手みたいに」


藤村 「酒呑童子も結構長くいたらしいよ。弁慶なんて3年くらいお腹の中にいたって」


吉川 「お母さんしんど過ぎるだろ。それは胎児の自己判断でどうにかできることじゃない。我慢とかできないよ」


藤村 「どうにもできなくても言っておいて欲しかったってことない? 英語禁止とか」


吉川 「それは言っておいて欲しかったよ。直近の話題だよ」


藤村 「だからあらゆることは突然降り掛かってきて理不尽だと思ってもやり遂げなきゃいけないんだよ」


吉川 「だから、で強引に論理付けたけど、全然だからじゃないと思う。今後ずっと英語禁止になってどうなるんだよ」


藤村 「どうなるって。英語を使わない限り何も変わらないだろ。むしろ税金に比べたら安い罰だ」


吉川 「税金も罰じゃないよ。罰金みたいに思ってるみたいだけど」


藤村 「英語でしか表現できない言葉なんて、日本で暮らしてる限り遭遇しないだろ。ちょっと気をつければいいだけだ」


吉川 「こうなったら先に英語を使わせて終わりにしてやる。だいたいこういうのはたくさん喋ったほうが負けるんだ。この間、見に行ったっていう映画どうだった?」


藤村 「モガガ。グングキゴオゴサモ、ゴモ。ペモ!」


吉川 「日本語すら使わなくなったか」



暗転

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