ヒッチハイク

吉川 「でもなんか今どきヒッチハイクなんて珍しいですね」


藤村 「そうなんですか? やっぱり牛車の時代とかはよくあったんですか?」


吉川 「知りません。そんな昔のことは。1000歳じゃないんだから」


藤村 「あ、やっぱり? 若く見えるなーと思ったんだけど。1000歳じゃないですね」


吉川 「思わないでしょ。初めて会った人に『この人1000歳なのかな?』って。まぁ、そんなに昔のことは知らないですけど、初めて会いましたよ。ヒッチハイクやってる人」


藤村 「私なんかは周りに結構いるんですけどね。そういう人が集まるSNSとか見てるし」


吉川 「あー、そっか。ネットで繋がったりしてるんだ? じゃあ乗せてくれる人もそこで見つけたりとか?」


藤村 「いえいえ、そこはやっぱり路上での出会いの醍醐味がありますから。あとネットの人間は性格終わってるやつしかいないから」


吉川 「そんなことないでしょ。それこそ一部の人だけですよ」


藤村 「やっぱりね、現実で人に親切にしてくれるような方はネットで悪口を書いたりしないんですよ」


吉川 「ネットって悪口書く以外のこともするでしょ」


藤村 「あー、裏垢女子とか?」


吉川 「そんなのばっかり見てるの!? それをネットの一言で片付けるの強引すぎるな」


藤村 「でもこうして実際に人と出会うってのは他ではちょっと代えがたいですね」


吉川 「こっちとしても、眠くなるといけないから話し相手がいてくれると助かります」


藤村 「あ、そうですか。そう言えば先日面白いことがあったんですよ」


吉川 「へぇ」


藤村 「あれは面白かったなぁ……」


吉川 「うん。どんな話ですか?」


藤村 「それはちょっと他人のプライバシーに関することなので言えませんが」


吉川 「あ、話さないの? そうなんだ。話してくれる感じかと思っちゃった」


藤村 「そんなまさか。初めて会った人にいきなりそんな話題を話しませんよ」


吉川 「どんな話だったのか逆に気になるな」


藤村 「そう言えばこの間つまらなかったこともあったんですけど、聞きます? これは話せます」


吉川 「つまらなかった話? さっきの話せないのは面白かった話で?」


藤村 「もうつまらないですね。聞き終わっても時間の無駄だったなぁって感じると思います」


吉川 「そんな話を大事にキープしとかなくていいでしょ。忘れなさいよ。面白かった話は他にないの?」


藤村 「他にですか? ないことはないですけど、もったいないですね」


吉川 「なに、もったいないって」


藤村 「ここで話すのはちょっともったいないかなって。まぁ、間違いなく爆笑とれるんで」


吉川 「いいじゃん、それで。もったいないって意味がわからないんだけど」


藤村 「タダで聞こうとしてます?」


吉川 「タダっていうかさ。車に乗せてあげてるじゃん。これは相当な価値でしょ?」


藤村 「いやぁ、乗せてくれた程度じゃどうだろ。つまらなくはないけどちょっと気持ち悪い話でいいですか?」


吉川 「なんでだよ! なんで値踏みして話そうとしてるんだよ。普通こういうのっていいエピソードから話してかない?」


藤村 「センスないとわからない話かもしれないんで」


吉川 「そんな言い方ある? あるかもしれないじゃん。センス」


藤村 「いや、今のところヒッチハイク乗せてくれる人は皆無ですね」


吉川 「決めつけるなよ!」


藤村 「違うんですよ。善良な人だから。ちょっとひねったような表現とかに眉をひそめちゃったりするので」


吉川 「確かにそう言われるとあんまり人を小馬鹿にしたようなやつはね」


藤村 「でしょ? 低能をバカにするのが世の中で一番面白いのに」


吉川 「性格悪いな。たとえそうだとしてもあんまり公言しないほうがいいよ」


藤村 「じゃあこういう話はどうでしょう? ちょっと怖いの」


吉川 「あー、聞きたいような聞きたくないような。でもそう言われちゃうと聞きたくなっちゃうなぁ」


藤村 「最近ですね、ヒッチハイクを装って強盗するやつがいるらしいんですよ……」


吉川 「……」


藤村 「……」


吉川 「あの、まさか」


藤村 「バカでしょ~? 乗せるやつ!」


吉川 「性格悪いな、オイ!」



暗転

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