チャラ

藤村 「もうこうなったらどうにもならないか」


吉川 「まずは謝ろうよ。話はそこからだよ」


藤村 「いや、どうだろ? もうここまできたら謝ってすむ問題じゃないと思うんだよ」


吉川 「確かに大事になっちゃったけど。まずは誠意を見せるべきじゃない?」


藤村 「でも謝ってすむ問題じゃないから」


吉川 「そりゃ謝ってすむ問題ではないよ。だけど謝らないことにはまず相手も収まらないでしょ」


藤村 「謝ってすむ問題だったら俺だって謝るよ? 率先して謝るよ。でも謝ってもチャラにならないじゃん」


吉川 「チャラにはならないよ。そんな簡単な問題じゃないから」


藤村 「だろ? 謝ってすむ問題じゃないのに謝ってもさ、その謝りのよって発生したリソースは返ってこないわけじゃない?」


吉川 「リソース? 今そういうことを考えるの?」


藤村 「だから問題解決を一番に考えるべきと俺は言ってるんだよ」


吉川 「だからと言って謝らないのはおかしくない?」


藤村 「なんで? チャラにならないのに」


吉川 「チャラにしようとするなよ。もうチャラになる可能性ってどこにもないから」


藤村 「それは思考停止じゃない? どうにかチャラになる方法がないか探し続けることこそ問題解決への近道じゃん」


吉川 「チャラになることが問題解決だと思ってるの? 根本的に考えの方向性が違う。真逆。起こってしまった自体を受け止めつつ、最小のダメージでっていうのが解決だから。起こらなかった状態には戻らないから」


藤村 「でもこの世の中に絶対ということはないんだぜ?」


吉川 「その格好いい台詞はこの状況で引用すべきじゃないな。ほぼ絶対にないよ」


藤村 「諦めずに探し続ければなにかあるはずだ! そうだろ?」


吉川 「確かに関係者全員死んだりしたらもうチャラになるけども」


藤村 「おい、今なんて言った!?」


吉川 「ひらめいた感じで受け取るなよ。グッドアイデアじゃないんだよ」


藤村 「いや、確かにそのまんまやるわけにもいかないが、そのアイデアを活かしてどうにかできるんじゃないか?」


吉川 「できないよ。関係者の死をアイデアって言うなよ。それだけは採用不可なんだよ」


藤村 「でもお前が言ったようにゼロである可能性はなくなった」


吉川 「それを探し続けるより、まず謝ろうって言ってるんだよ。それが最善なんだから」


藤村 「確かに、それこそが最短距離かもしれない。でもそんな最短距離ばかり目指していいのか? 人生ってのはもっとさ、寄り道したり迷ったり、そう言った時間こそが豊かにしてくれるんじゃないのか? 最短距離を進むだけならコンピュータでもできらぁ!」


吉川 「人生じゃなくてこの問題に限って話をしてくれよ。謝るのはコンピュータにできないんだよ。人間の誠意を見てるんだから」


藤村 「いつからお前はそんな、挑戦を忘れた大人になっちまったんだよ!」


吉川 「ここは挑戦するタイミングじゃないから。どういう挑戦をしょうとしてるの? こっちの身を削ってでも丸く収めなきゃいけないんだよ」


藤村 「いつか手が届くと信じてあがき続ける俺を、周りの奴らは笑うかもしれない。だけど俺は一向にかまわないさ」


吉川 「笑うって言うよりもさ、謝れよ。その頑なさが迷惑なんだから」


藤村 「チャラに?」


吉川 「ならないよ! 謝るのはもう入り口だから。そこからが大変なんだから」


藤村 「だったらそんなのはもう遠慮します」


吉川 「遠慮はできないだろ、自分で招いたんだから」


藤村 「ここまで事が大きくなった以上、誰が悪いとかそういう事を言っても仕方がないでしょ」


吉川 「仕方ないけど、その論法でまんまと逃げおおせると思うなよ? なんでそこまで謝りたくないんだよ」


藤村 「別に謝りたくないなんて一度も言ってないぞ。謝るくらいいくらでもするよ」


吉川 「じゃあ、なんなんだよ!?」


藤村 「怒られたくないだけだ!」



暗転

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